岐阜新聞 映画部

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事件を冷静かつ客観的に描きながら、背後に潜む闇に迫った社会派映画

2020年09月04日

MOTHER マザー

©2020「MOTHER」製作委員会

【出演】長澤まさみ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花、阿部サダヲ
【監督】大森立嗣

主人公に必要以上に感情移入しないのは大森監督の真骨頂

 17歳の孫が祖父母を殺す。日本の殺人事件の55%は親族間殺人ということだが、こういうケースはそんなに多くはない。ましてや少年が居所不明児童で、母の言葉に従って犯行を行ったという特異な事件である。

 本作は、2014年3月に発生した川口祖父母殺害事件を冷静かつ客観的に描きながら、背後に潜む闇に迫った社会派映画である。大森立嗣監督は、同事件を取材した奥寺香のノンフィクションのタイトル「誰もボクを見ていない」を念頭に置きつつも、決して正解を押し付けることはせず、映画を観ている我々に判断する材料のみを提示する。加害者の少年を、怪物たる母の被害者であったなどと単純化したりしない。主人公に必要以上に感情移入しないところは、大森監督の真骨頂である。

 こういう余白のある映画、巾のある映画は、観た後に色々考えるきっかけができ、映画の印象がより深まっていく。

 怯えてはいるが澄んだ目をした周平(奥平大兼)は、身勝手だが支配的で典型的ネグレクトの母・秋子(長澤まさみ)に対し、我慢する以外の対処法を知らない。歳の離れた妹には、ほとんど母親代わりになっている。

 こんなに過酷で悲惨な状況の中でよく生き延びてきたものだ。学校にはほとんど行かせてもらえないが、極めて頭脳明晰であることはよく分かる。この頭の良さが、幼い時から自己決定をせざるを得なかった少年に、閉塞された親子関係の中で誤った決定をしてしまった不幸が浮かび上がってくる。

 なぜ彼は凶行に走ってしまったのか。私は、彼が幼児の頃から親が傍にいなかった「見捨てられ不安」や、日常的な虐待に感覚が麻痺し抵抗をやめる「学習性無力感」があったこと。それを背景に見捨てられたくない「共依存」と、DVによくある母からの「心理操作」があったのではと推測する。

 こういう事件が二度と起こらないためには、社会が救わなければならないと気が付かせる。素晴らしい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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