岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

素晴らしい才能が結集した奇跡の傑作

2020年08月22日

アルプススタンドのはしの方

© 2020「On The Edge of Their Seats」Film Committee

【出演】小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹
【監督】城定秀夫
【脚本】奥村徹也

この映画は、あの頃の僕を肯定してくれる

 2015年夏、息子の少年野球チームの後輩が4番を打つ中京大中京の試合で、私は応援団と共にアルプススタンドから大声援を送っていた。結果、関東一高に敗れてしまったけれど、彼には「しょうがない。引きずるな!」と思ったものだ。

 高校の頃は野球が大好きであったが運動神経は全くで、アルプススタンドの中央に憧れはすれど、はしの方に追いやられた映画好きの文系というカーストであった。野球はやりたくても運動神経悪いんだから「しょうがない」と納得していた。

 本作の主題は、演劇部の安田(小野莉奈)の口癖である「しょうがない」をどう捉えるかにかかっていると思う。私は普段、精神障害者の就労を支援する仕事をしているが、彼らは傷つきやすくてこだわりの強い人が多い。「しょうがない」は、現実を受け入れ、出来る出来ないを知り、次に進んでいくという意味で積極的に使っている。

 この映画で安田さんは一見「しょうがない」を諦めの意味で使っているようにみえる。現実に「しょうがないというのやめて」と言われてしまう。でも私は、安田さんが変えられない過去に捉われず、自分で未来を決めていくための魔法の言葉として、ポジティブに使えるようになったとの変化を感じた。安田さん、ガンバ!

 この映画は、そんなに輝いてなかった高校時代を甘酸っぱく思い起こさせると共に、今に至る映画の原点はここだったんだぞと、あの頃の僕を肯定してくれる。そして「しょうがない」を巡って青臭い意見を言えてしまう。なんだか青春している気分になれる素晴らしい映画だ。

 短いセリフの応酬で、リアリティ溢れる会話劇を作った原作の藪博晶先生。そのコンセプトを見事に昇華し、オリジナルな登場人物の追加で、さらなる厚みを増したシナリオの奥村徹也さん。カットをあまり割らず、人物の出し入れで映画的表現を実現するいつもの城定秀夫監督。素晴らしい才能が結集した奇跡の傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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