岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アレンの才気も本作では不発

2020年08月14日

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

Photography by Jessica Miglio ©2019 Gravier Productions, Inc.

【出演】ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
【監督・脚本】ウディ・アレン

アレンはもともと空間造形が下手な監督

 監督・脚本のウディ・アレンの本作は残念ながらいくつかの点で不満が残る。主人公のティモシー・シャラメとエル・ファニングの造形がどう考えても30~40年前の人物像。今どきコール・ポーターやガーシュインのスタンダードナンバーをピアノで弾き語りする青年がいるとは思えない。超高級なカーライル・ホテルの有名なピアノ・バーやら彼らが宿泊するピエール・ホテル、メトロポリタン美術館や映画撮影所見学のため訪問するクイーンズなどが主な舞台となるが、移動に伴う時間や位置関係が全く無視されており、現実感に欠ける。アレンはもともと空間造形が下手な監督で、こうした移動にかかる時間や手段を全く気にしておらず、映画の中で描いて来なかった。本作では雨の日の一日の出来事という時間的制約があるはずなのに、まるで一瞬で空間を移動したかのようなご都合主義が目立つ。

 シャラメの両親やセレーナ・ゴメスが住むアッパー・イーストサイドの高級コンドミニアムはどう見ても数千万ドルクラス。あまりに浮世ばなれし、主人公らに現実感を持てない。

 主人公のシャラメを20代前半とすると1990年代後半の生まれとなるが、後半明らかになる母親の秘密のくだりは時代にそぐわない。戦後の混乱期ならまだ分かるが、30~40年ずれていると感じたのはこのエピソードも要因。

 映画の中盤、エル・ファニングが監督を追って撮影所に行くことになるが、脚本家の妻の浮気現場に出くわすといった余計なエピソードも映画の流れを中断してしまう。本作では狙い通りに脚本が展開していったと思えず、アレンの才気も不発に終わっている。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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