岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

見えない最前線で闘った無名の作業員たち

2020年07月14日

Fukushima 50(フクシマフィフティ)

© 2020『Fukushima 50』製作委員会

【出演】佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美
【監督】若松節朗

福島第一原発の爆発はキノコ雲に見えた

 東日本大震災から9年が過ぎた。記憶の風化とか言われるが、あの震災を実体験していない者が言う「あの日の出来事を忘れることはできない」という言葉には重みがないことも確かである。しかし、いくつもの災害の記憶…例えば、関東大震災や伊勢湾台風の被害を記録した映像と、東日本大震災のそれとは実感の重みに違いがあるように思う。

 町を飲み込むどす黒い水の質感や、飛行場を絨毯爆撃のように侵食していく津波の威力は、そのリアルさを実感し戦慄した。さらなる衝撃は、本震の翌日の午後に発生した福島第一原子力発電所1号機で起きた水素爆発だった。

 私事になるが、昔、再就職の折、某家電企業の面接を受けたことがあった。正規社員とかではなく、臨時採用枠のような求人だった。人事担当の社員と一対一の面談で、どういうきっかけだったかは記憶が定かではないが、話題に原子力発電所のことが上がった。その時、自論であった原子力発電所の開発には反対であるという意見を喋った。いや、言わされたのかも知れない。当時70年代の終わり頃は、原子力発電所の安全性に関して、それなりの議論が交わされた時期でもあった。映画でも『原子力戦争 Lost Love』(78年/黒木和雄監督)や、『チャイナ・シンドローム』(79年/ジェームズ・ブリッジス監督)が公開されるなどしていた。

 原子力関連施設には、強い緊張感の糸が張られ、例えば、放射能漏れはごく少量であっても、厳格な対処のもと、詳細な情報公開や報道がされていた。安全性の神話は存在していたように思えた。

 『Fukushima 50』は、あの事故の見えない舞台裏や、本当は最前線であった原発の現場で闘った50人の職員たちの姿を中心に描いている。知らなかったことを知る意義は大きい。また、東電本社の対応や政府との調整など、醜態も描くことを躊躇ってはいない。しかし、避難解除を祝う大団円は、現実からは遠く離れた楽観に見える。完全回復はあるのだろうか…?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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