岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ベストセラーに群がる欲望のせめぎ合い

2020年06月13日

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

©(2019) TRÉSOR FILMS – FRANCE 2 CINÉMA - MARS FILMS- WILD BUNCH – LES PRODUCTIONS DU TRÉSOR - ARTÉMIS PRODUCTIONS

【出演】ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコ、リッカルド・スカマルチョ、シセ・バベット・クヌッセン、エドゥアルド・ノリエガ、アレックス・ロウザー、アンナ・マリア・シュトルム、フレデリック・チョウ、マリア・レイチ、マノリス・マブロマタキス、サラ・ジロドー、パトリック・ボーショー
【監督・脚本】レジス・ロワンサル

万全のセキュリティと支配者の慢心の隙

 全世界待望のミステリー小説「デダリュス」の完結編が完成した。フランスに集結するのは選抜された翻訳家9人。英語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、ポルトガル語、ロシア語、デンマーク語、中国語の翻訳家たちは、郊外のお城のような屋敷に入るが、そこは鉄壁のセキュリティに固められた要塞のような場所だった。

 出版社のオーナー・アームストロング(ランベール・ウィルソン)が目論むのは世界同時発売のイベントで、決定された発売日までは、海賊行為や違法流出はあってはならないことだった。

 屋敷に到着した翻訳家からは、スマホなどの通信手段は全て回収され、外界との交信は不可能となる。密閉された空間に用意されているのは、一見至れり尽くせりの生活だったが、そこに発生する異様なまでの緊張感が、翻訳家たちを追い詰めていく。

 このありそうでなさそうな設定が面白い。実際には『ダ・ヴィンチ・コード』などで有名な作家ダン・ブラウンの人気シリーズ小説の「インフェルノ」を出版する際に、実際にこういった翻訳の作業が行われた。この映画もその実話をベースとしている。

 毎日渡される20ページ分の原稿を粛々と翻訳する作業は続くが、ある日、アームストロングのもとに「デダリュス」の冒頭の10ページをネットに公開したというメールが届く。そこには、次の100ページの公開予告と500万ユーロの支払いを求める脅迫の文句が添えられていた。

 本筋はこの脅迫犯を追うミステリーで、内部犯行が疑われ、標的は9人の翻訳家に絞られる。構成は早い段階から回想の形式になり、一見、事件は終結しているかのように見えるのだが…。

 9人の翻訳家のそれぞれの背景は小出しに提示されるものの、限定的で偏りが見られるのは、謎解きの語り口としてはフェアではない。そして、複雑な構成の割に結末は平凡な着地になり、物足りないのが少し残念だ。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る