岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アルゼンチン発
ブラックユーモアコメディ

2017年12月01日

笑う故郷

【出演】オスカル・マルティネス、ダディ・ブリエバ、アンドレア・フリヘリオ、ノラ・ナバス、マヌエル・ビセンテ、ベレン・チャバンネ
【監督・撮影】ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

「ふるさとは遠きにありて
思ふもの」である

 権威に対するおもねり、嫉妬、反発など、人間の複雑な感情や心理を巧みに描き出した傑作。散りばめられたブラックユーモアには苦笑の連続で、含みをもたせたラストは見事である。
 芸術とは何か?創造するとはどういう事か?主人公のノーベル賞作家ダニエル・マントバーニ(オスカル・マルティネス)が悩めば悩むほど、故郷のアルゼンチン・サラスの街は、人間の本質に迫りながらダニエルに襲い掛かってくる。故郷は、懐かしむ所ではなく、人間の信頼・友情・尊敬に加え嫉妬・反発・裏切りなど様々な感情が渦巻く、まさに生きる現実の世界なのである。
 ダニエルの小説のネタは、逃げるように街を出て、その後40年間帰らなかった故郷の人や事件のこと。おそらく土地の持つ保守性や閉鎖性を徹底的にからかい、モデルとなった人や事件を創造的に再構築した風刺文学であったのだろう。ダニエルは否定するが、サラスの人は、みんな誰かや何かに結びつけて、モデル小説だと思っている。ノーベル文学賞の大作家も、地元ではキワモノ小説家みたいに思われてるのが笑える。
 今まで権威を批判しつつ、認められている喜びを密かに感じていたダニエルだが、サラスの街の歓迎ぶりは、誠にショボイ。消防車に乗った歓迎パレードを見る人は疎らで、講演も回を追う毎に聴衆はみるみる減っていく。そしてダニエルが忌み嫌ってきた、ハグやキスまで嫌々ながらやるハメになってくるのは、鮮やかな皮肉である。中でも何を描いたかのではなく誰が描いたかが重要な絵画コンクールの審査員になったダニエルが、落選した地元の美術団体の代表とのトラブルになってしまうシーンは秀逸で、傲慢さと嫉妬が同居する権威者の本質を鋭く批評している。意味深なラストに至るまでシュールな演出で大いに笑わせてくれる傑作である。

『笑う故郷』は岐阜CINEXで12/2(土)より公開。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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