岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

言葉の重みが分かるドキュメンタリー

2020年06月14日

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ

©CAPITAL INTELECTUAL S.A, RASTA INTERNATIONAL, MOE

【出演】ホセ・ムヒカ、ルシア・トポランスキー、エレウテリオ・フェルナンデス=ウイドブロ、マウリシオ・ロセンコフ
【監督】エミール・クストリッツァ

クストリッツァ映画にはピタリの主役

 南米ウルグアイの前大統領ホセ・ムヒカは、退任後の2016年初来日し、日本各地で記者会見や講演を行った。日本政府が、憲法解釈を変え集団的自衛権の行使を可能とした安保法について「憲法の解釈を変えたのは、日本が先走って大きな過ちを犯していると思う」と批判。若者に対しては、その投票率の低さに「君たち若者は闘わなければいけない。何かしなければいけない」と語った。

 本作は名匠エミール・クストリッツァ監督が大統領時代のムヒカに密着し、退任までを追っていった言葉の重みが分かるドキュメンタリーである。

 映画の中のまあるい体と柔和な眼差しの今のムヒカからは、チェ・ゲバラを敬愛する社会主義者で、軍事政権時代には激しい階級闘争の末、長期間投獄された闘志だったとは想像がつかない。

 しかし、口から発する言葉は、2012年の国連地球サミットでの「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」とのスピーチや、来日時での「日本人はほんとうに幸せですか?」の発言など、少しの衰えもなく鋭く切り込んでいる。

 そんなパワフルなムヒカに、クストリッツァ監督はマテ茶を回し飲みする作法で歓待されつつ、自身もインタビュアーとなって迫っていく。凄いのは、劇映画での彼の独特の作風が、ドキュメンタリーでもいかんなく発揮されている点だ。

 ムヒカが住んでいる質素な住宅は、田舎の小さな村が舞台になることが多いクストリッツァ映画の風景であるし、印象的な劇中音楽が生で何度も演奏されたり、愛犬をはじめ様々な動物が画面を横切っていくのも、いつも通り。そもそも陽気でユーモアが溢れ、過酷な体験も淡々と語るムヒカは、クストリッツァ映画にはピタリの主役だ。

 タイトルは「世界でいちばん貧しい」であるが、映画を観ていると違うことが分かる。「世界でいちばん質素な」大統領なのである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る