岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

「なぜ生きているのだろう?」という根源的問いを気付かせてくれるロードムービー

2020年05月24日

風の電話

©2020 映画「風の電話」製作委員会

【出演】モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和、渡辺真起子、山本未來、占部房子、池津祥子、石橋けい、篠原篤、別府康子
【監督・脚本】諏訪敦彦

諏訪監督の映画には予定調和など一切ない

 21世紀になってから、人生の価値観や生き方を問い直す歴史的出来事が立て続けに起こっている。それは2011年の東日本大震災による未曽有の津波の被害と原発事故、そして2020年、いま真っただ中にある新型コロナウイルスによる生活様式の変容である。

 本作は、東日本大震災で両親と弟を失ったハル(モトーラ世理奈)が生きる意味を見失って彷徨い歩いていく中で、様々な人と出会い優しさに触れながら、「なぜ生きているのだろう?」という根源的問いを我々に気付かせてくれるロードムービーだ。

 精密な台本を作ってから一度ぶっ壊し、着地点を決めないで即興的に撮影していくスタイルの諏訪敦彦監督の本領は、本作でもいかんなく発揮されている。 

 ハルが生まれ故郷の大槌に帰りたいと目的を告げるのは、映画の中盤、福島出身の元原発作業員・森尾(西島秀俊)に問われてからである。それまでに会った広島の豪雨災害体験者・公平(三浦友和)にも、ヒッチハイクで拾ってくれた仲良し姉弟(山本未來、カトウシンスケ)にも言わない。でも、彼らは決してハルを問い詰めない。ただ「死ぬなよ」とか、金を渡して「返しに来いよ」と言うのみである。

 まずは彷徨い出る、目的は後からついてくる。諏訪監督の映画には予定調和など一切ないのだ。

 そして圧巻は、"風の電話"でのモトーラ世理奈の10分間のモノローグだ。「もしもし。ハルだよ。元気?17歳になったよ。広島からここまで旅して来たんだよ」。いつものように切り返しなど一切ないノーカットの撮影。緊張感の中、モノローグがダイアローグに代わっていく。「会いに行くよ。みんなに会いに行くよ。だけど、それまでは生きるよ」。

 映画にはハルを抱きしめるシーンが何度も出てくる。「人との接触を8割減らす」という感染症対策における3つの「密」とふれあい。この映画を観ていると何が大切かが分かってくる。絶対に共存できる。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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