圧巻のスケールで描くフランスの国民的作家ロマン・ガリの自伝

　シングルマザーのニーナ（シャルロット・ゲンズブール）は、ひとり息子のロマンとポーランドで暮らすロシアからの移民だった。ユダヤ系の出自は差別の対象となり、近所とのトラブルも多発したが、負けん気の強いニーナは誇りと信念だけは失うことはなかった。ロマンを溺愛し、息子はフランス軍で勲章を受け、外交官になり、大作家になると信じてやまない。その親馬鹿ぶりと惜しみない英才教育にロマンは戸惑い、時に反発するのだが、母の夢を叶えることが自分の使命だとも感じていた。

　ニーナは仕立て屋を営み、それを高級店に昇格させるために、偽有名デザイナーを招いて、公認専属店の看板を掲げる。このハッタリを含んだ行動力は、時に息子のロマンに同情を覚えるほどなのだが、その生きざまは凄まじく清い。

　ポーランドでの成功は長続きせず、親子は夜逃げ同然でフランス行きを決行する。そして、ホテル経営で再び豪腕を奮うことになる。

　原作はフランス文学賞の最高峰ゴングール賞を、史上唯一2度受賞しているロマン・ガリの自伝「夜明けの約束」で、これが実話の映画化であることが分かれば、ロマンの作家としての成功は見えるのだが、その波乱万丈な物語はその想像を超えて展開する。

　成長したロマン（ピエール・ニネ）は自由フランス軍に志願し、北アフリカの戦線で病に倒れる。生死の境目で苦しむロマンを救うのは母ニーナから届く激励の手紙だった。

　軍でも不当な差別にさらされながらも、戦闘機パイロットとなり活躍するロマンは、戦場でも小説を書き続ける。

　ポーランドの薄暗いアパーメントから始まる物語は、フランスの華やかなホテル、そして戦場へと場を変える。その圧巻のスケールと母子の強い絆は観るものを引き込む。

　シャルロット・ゲンズブールは、映画監督のセルジュ・ゲンズブールと女優ジェーン・バーキンとの間に生まれた。可愛い子役からキャリアを重ね、今や大女優としての風格でニーナを演じきった。