岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

米国映画の良心を感じさせる佳作

2020年03月10日

ザ・ピーナッツバター・ファルコン

©2019 PBF Movie, LLC. All Rights Reserved.

【出演】シャイア・ラブーフ、ダコタ・ジョンソン、ジョン・ホークス、ザック・ゴッツァーゲン
【監督・脚本】タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ

誕生日パーティに招かれるということ

 無名の監督でほぼ何の知識もなく観たところ、思わぬ拾い物だった。監督と脚本はタイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツの二人。初の長編劇映画だそうだが、万人に勧めたい佳作だ。

 主人公は老人の養護施設で暮らすダウン症の青年。夢はプロレスラーの養成所に入ることで、そのVHSビデオを千回も見たという変わり者。文字通り半裸で所持金もなく施設を脱走するが、前半はそのロードムービーだ。その彼を探す施設の介護職員(ダコタ・ジョンソン)とひょんなことから彼と遭遇し、反発しながら行動を共にするシャイア・ラブーフが絡んでくる。

 DVDやYouTubeでなく、なぜVHSなのかと不思議に思っていたら、どうやら時代設定は90年代か2000年代初頭のようだ。介護職員もスマホの地図アプリではなく、折り畳みの紙の地図を使っている。主人公が憧れる元プロレスラーが落ちぶれた生活をしているのを目の当たりにしながら、なお弟子にしてもらうことを夢見る純真さとバカバカしさに複雑な思いを抱くが、VHS発売当時の現役時代から引退後の年数を考慮した設定かと思われる。というわけで、ノートPCやスマホは登場しない。主人公らの道行きが一見のどかで平和に感じられるのは、そうしたノスタルジックな仕掛けもある。

 舞台はジョージア州南東部からフロリダの北部の湿原地帯。全米でも最も貧しい地域である。打ち捨てられたような家屋が並ぶが、主人公らの行動はどこか微笑ましい。現実的な介護職員からは「蠅の王」ごっこは終わりにして、というシニカルなセリフも投げかけられるが、この旅がいつまでも続いて欲しい、という願いも湧いてくる。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

観てみたい

100%
  • 観たい! (5)
  • 検討する (0)

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

ページトップへ戻る