岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

倦怠期の2組の夫婦の結婚生活や不倫を織り交ぜて描いた、エスプリたっぷりの会話劇

2020年02月09日

冬時間のパリ

©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

【出演】ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、クリスタ・テレ、ノラ・ハムザウィ、パスカル・グレゴリー
【監督・脚本】オリヴィエ・アサイヤス

「変わらないためには、変わらなくてはいけない」

 私はかつて、年間数十万部を発行する道路地図の会社で編集の仕事についていたが、今やその主役はカーナビやインターネットの無料地図にとって代わられた。地図のメンテナンスには膨大なコストがかかるのだが、そのノウハウは風前の灯となってきている。

 本作はフランスの鬼才オリヴィエ・アサイヤス監督が、デジタル化が進みゆくパリの出版業界を舞台に、倦怠期の2組の夫婦の結婚生活と不倫生活を織り交ぜて描いた、エスプリたっぷりの大人の会話劇である。

 敏腕編集者アラン(ギョーム・カネ)を中心とする、最近の出版事情や芸術の在り方を巡る議論が実に興味深く大変面白い。「インターネットが書くことを自由にし、個人に発表の機会を与えた」「ツイッターは短文で文学ではない」「いや短い名文句をひたすら繰り返すところは、アンシャン・レジームの頃と同じ」。

 本の価値を巡る議論では、「ハードカバーは13ユーロするが、電子書籍は3ユーロで買える。その差は何?」「今やWebの文章の方が出版物より読まれている」「Webの文章はSEO対策がしてあり文学ではない」「老人は紙の本しか読まない」「いや電子書籍の主な購入者は高齢者だ」など興味を引くお話が目白押しである。

 こんな高尚な話をしているアランとその周りの人々だが、女優の妻・セレナ(ジュリエット・ビノシュ)は、連続テレビドラマをこなすだけの仕事をしているし、友人の作家・レオナール(ヴァンサン・マケーニュ)は相変わらず不倫相手を登場させる古臭い小説しか書けない。その妻で政治家秘書のヴァレリー(ノラ・ハムザウィ)は政治家のスキャンダル対策で嫌になってきている。

 しかし、ヴィスコンティの『山猫』の中の台詞「変わらないためには、変わらなくてはいけない」が引用される如く、映画の中で4人の主役たちは少しばかり変わっていく。元の鞘に収まるというか、「終わりよければすべてよし」である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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