岐阜新聞 映画部映画館で見つけた作品ジョジョ・ラビット B! 意表を突く反戦映画の秀作 2020年01月28日 ジョジョ・ラビット ©2019 Twentieth Century Fox 【出演】ローマン・グリフィン・デイビス、トーマシン・マッケンジー、レベル・ウィルソン、スティーブン・マーチャント、アルフィー・アレン、サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン 【監督・脚本・製作・出演】タイカ・ワイティティ 少年のイマジナリーフレンドからの脱却物語 この映画の監督タイカ・ワイティティの名前は初めて知ったが、これは思いがけない秀作だった。10歳の少年は絵にかいたような軍国少年。イマジナリー・フレンドが何とヒトラーで彼の眼にだけ見える存在。ヒトラーは事あるごとに少年を鼓舞する。少年とヒトラー・ユーゲント入隊キャンプの教官でナチスの大尉役サム・ロックウェル、監督自身が演じる想像上のヒトラーがかなりデフォルメされている。一方、母親や少年の家に隠れ住むユダヤ人の少女などその他の周囲の人物はリアルに描かれる。全体のタッチがなぜか明るくユーモラスなのはウェス・アンダーソンと似ている。ただアンダーソンが映画全体をデフォルメし、独自の世界を創造しているのに対し、本作のワイティティ監督は限られた登場人物のみを対象にしている。 序盤、ただ元気なだけの少年がだんだんと戦争の現実や不合理に直面し、悲しみの表情を見せる子役も巧い。また、靴ひもやナイフといった小道具で、後半の展開により意味を際立たせる脚本も練られている。サム・ロックウェルはこのところ、『スリー・ビルボート』、『バイス』など話題作への出演が続いているが、本作でもクセのある役どころを好演している。ワイティティのヒトラーも自分で演じてみたかったのだろう。 第二次大戦末期の時代ながらビートルズの「抱きしめたい」やデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」などがドイツ語バージョンで流れる。この映画の全体のタッチに見事に溶け合い違和感はない。ドイツの小さな町の再現もカラフルで、これまでのナチス映画とはかなり異なる。散々描き尽くされた題材かと思いきや、少年の成長を反戦思想でコーティングした本作は意表を突く秀作だった。 語り手:シネマトグラフ外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。 100% 観たい! (8)検討する (0) 語り手:シネマトグラフ外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。 2022年05月23日 / ベルイマン島にて 巨匠が愛した島で紡ぐひと夏の物語 2022年05月23日 / ベルイマン島にて ベルイマンを通じて創造の原点を再確認するひと夏の物語 2022年05月20日 / ハチとパルマの物語 モスクワにもあった忠犬の物語 more 2019年02月27日 / 延岡シネマ(宮崎県) 夏休み…映画館で買ってもらったお菓子の味を思い出す。 2018年02月07日 / Cinema KOBE(兵庫県) 映画発祥の地で、映画を愛する常連さんに支えられ… 2019年04月10日 / シネマ5(大分県) 映画館の滞留時間を長く…映画の余韻を楽しむ more
少年のイマジナリーフレンドからの脱却物語
この映画の監督タイカ・ワイティティの名前は初めて知ったが、これは思いがけない秀作だった。10歳の少年は絵にかいたような軍国少年。イマジナリー・フレンドが何とヒトラーで彼の眼にだけ見える存在。ヒトラーは事あるごとに少年を鼓舞する。少年とヒトラー・ユーゲント入隊キャンプの教官でナチスの大尉役サム・ロックウェル、監督自身が演じる想像上のヒトラーがかなりデフォルメされている。一方、母親や少年の家に隠れ住むユダヤ人の少女などその他の周囲の人物はリアルに描かれる。全体のタッチがなぜか明るくユーモラスなのはウェス・アンダーソンと似ている。ただアンダーソンが映画全体をデフォルメし、独自の世界を創造しているのに対し、本作のワイティティ監督は限られた登場人物のみを対象にしている。
序盤、ただ元気なだけの少年がだんだんと戦争の現実や不合理に直面し、悲しみの表情を見せる子役も巧い。また、靴ひもやナイフといった小道具で、後半の展開により意味を際立たせる脚本も練られている。サム・ロックウェルはこのところ、『スリー・ビルボート』、『バイス』など話題作への出演が続いているが、本作でもクセのある役どころを好演している。ワイティティのヒトラーも自分で演じてみたかったのだろう。
第二次大戦末期の時代ながらビートルズの「抱きしめたい」やデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」などがドイツ語バージョンで流れる。この映画の全体のタッチに見事に溶け合い違和感はない。ドイツの小さな町の再現もカラフルで、これまでのナチス映画とはかなり異なる。散々描き尽くされた題材かと思いきや、少年の成長を反戦思想でコーティングした本作は意表を突く秀作だった。
語り手:シネマトグラフ
外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。
語り手:シネマトグラフ
外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。