岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ケン・ローチ監督の暖かいまなざし

2020年01月24日

家族を想うとき

©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

【出演】クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
【監督】ケン・ローチ

イギリスの格差社会を暴く

 イングランド北部のニューキャッスルが舞台。失業中の主人公はフランチャイズ契約で宅配の仕事を始める。映画の冒頭は面接シーンだ。雇用主側から業務の概要や契約の説明があるが、半ば上の空。早く稼いで生活を再建することしか頭にない。帰宅後、長男からフランチャイズとはマクドナルドかケンタッキーか、と軽口を叩かれるが、確かにそれらに近い雇用形態。日本で宅配のドライバーがこの映画のように個人事業主かどうかは知らないが、現在社会問題となっているコンビニの経営者は皆その扱いだ。企業は、年金や雇用保険など社会保険料負担軽減のため、個人事業主との契約に切り替えている。

 映画の中盤、長男の万引き騒動で警察に行くはめになる主人公は有給休暇を申し出るが、雇用主はその要求を撥ねつける。1個でも多く荷物を配送して欲しいのだ。個人契約なら休暇の分はそのまま報酬減となるだけなので、いつ何日休もうと勝手なはずなのだが、このあたり契約上はどうだったのか詳しく描かれない。ひたすら主人公一家は苦境に追い込まれ、それが実にリアルだ。 

 それでも、監督ケン・ローチのまなざしは暖かい。必死に家族を守ろうとする父親や母親の困難を追いかけていく。2006年の『麦の穂をゆらす風』でカンヌのパルムドールを受賞したとき、これが晩年を代表する白鳥の歌となってよかったな、などと一人思ったが、その後も次々と秀作を連発し続ける旺盛な創作意欲には恐れ入る。2007年の『この自由な世界で』、2010年の『ルート・アイリッシュ』、2016年の『わたしは、ダニエル・ブレイク』など、すべてその年を代表するような傑作ばかりだ。2019年末に公開された本作も、同年の数ある傑作・秀作の中から迷わずベストワンに選んだ。あらゆる点で申し分のない作品だ。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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