岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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重層的でバランスのとれた骨太の社会派アクション映画

2019年12月07日

ホテル・ムンバイ

© 2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC

【出演】デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、ティルダ・コブハム・ハーヴェイ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス
【監督・脚本・編集】アンソニー・マラス

テロリスト側になってしまった貧困層の若者の事情も丁寧に描いている

 2008年11月、インド・ムンバイで起こったイスラム過激派による同時多発テロで襲撃の対象となったタージマハル・ホテルは、インド最大の財閥タタ・グループが運営する最高級ホテルである。その昔、財閥の創始者がムンバイの英国人経営の高級ホテルに宿泊しようとした際、白人でないとの理由で拒まれたことに反発し、建設したホテルだ。

 本作は、「インド人のプライド」とも言えるこのホテルで働く誇り高きホテルマンと、たまたま取り残されたゲストたちが、死の恐怖と闘いながら、協力し合って脱出していくまでを描いた、異様な緊張感あふれる群像劇である。

 映画はいくつかのエピソードが巧妙に繋げ合わさり、1秒後に死ぬかもしれない緊迫感をもたせながら、奇跡の脱出劇へと物語は収束していく。アンソニー・マラス監督の巧みなストーリーテリングとリアリティ一ある演出は、初長編とは思えない熟練したうまさだ。

 マラス監督は、映画を「名もなき英雄VS冷酷なテロリスト」という型通りのイメージにはしておらず、テロリスト側になってしまった貧困層の若者の事情も丁寧に描いている。彼らは、初めての大都会や豪華なホテルに目を輝かせる普通の青年であり、貧しい家族のために闘っているのだ。

 この映画の主人公の1人、シーク教徒でホテルの使用人アルジュン(デヴ・パテル)も恐らく同じような階層出身と思われるが、なぜ加害者と被害者に分かれてしまったのか?違いは紙一重なのかもしれないと伝わってくる。

 アルジュンは、怪我をしたバッグパッカーのブリーの出血を止めるため、人前では絶対外さなかったターバンを脱いで止血する。人間の生死を前にしたら、教典を逸脱しても神が罰する事はないのだ。

 アメリカ人実業家(アーミー・ハマー)の妻がイラン人(ナザニン・ボニアディ)だという多様性も含め、重層的でバランスのとれた骨太の社会派アクション映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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