岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

デートムービーにも使えるタイムトラベラーもの

2020年01月21日

サイゴン・クチュール

©STUDIO68

【出演】ニン・ズーン・ラン・ゴック、ホン・ヴァン、ジエム・ミー、オアン・キエウ、S.T、ゴ・タイン・バン
【監督】グエン・ケイ/チャン・ビュー・ロック

娯楽映画の中のさり気ない政治の部分も

 ベトナムからやってきたポップでキュートな『サイゴン・クチュール』。本作の舞台はサイゴン(現ホーチミン)で、時代設定は1969年と2017年。デートムービーにも使えるタイムトラベラーものである。

 今の日本の若い子や、事業所の近くのコンビニで働いているベトナム人のシュッとしたイケメンの男の子には想像もつかないと思うが、私が高校生だった45年前(1975年)までベトナムは戦争をしていた。その頃の日本人が抱くベトナム人のイメージは、ノンラー(円錐形の葉笠)を被り黒い農民服を着た姿。この映画を観ると、それが作られたイメージだった事がよく分かる。

 老舗アオザイ店の跡取り娘ニュイ(ニン・ズーン・ラン・ゴック)が、民族衣装のアオザイなんかには目もくれず、ロンドン風の最先端のファッションに身を包んでブイブイいわせていたのが1969年。

 私が当時知っていたベトナムは、アメリカの介入で戦争が泥沼化している悲惨な状況。しかし映画を見ると、アメリカが支援していた南ベトナムの首都サイゴンは戦争の影がほとんど見えず、若い女性はオシャレを楽しんでいる。男性は戦場へ行っているのであまり出てこないが、『この世界の片隅に』と同じように、残った庶民は普通の日常生活を送っている様子が描かれる。

 そして2017年、落ちぶれて死のうとしているニュイ=アン・カイン(ホン・ヴァン)。1969年のニュイが、2017年のみすぼらしい未来の自分の姿を見て改心し、アオザイという古き良き伝統を発展的に継承し蘇らせていくというのが本筋だ。ハッピーエンドで終わるのは、こそばゆくはあるが嬉しい気持ちになってくる。

 ニュイの母の店を継いでいたのは、使用人で養女のタン・ロアン(ジエム・ミー)。うがった見方をすれば、1969年の資本家は落ちぶれ、代わって2017年には使用人が活躍している。娯楽映画の中のさり気ない政治の部分である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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