岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

本当の親子関係の中で描く、白石監督作品の新しい視点での家族映画

2020年01月04日

ひとよ

©2019「ひとよ」製作委員会

【出演】佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子
【監督】白石和彌

腹おちしない部分もあるが、全体としては大好きな映画

 白石和彌監督は、血縁関係のない疑似家族的な人間の関係性を描いた傑作を連発してきたが、本作は、夫殺しの母親と3人の子どもたちという本当の親子関係の中でのわだかまりと確執、拒絶と許しなどを中心に据えた、新しい視点での家族映画である。

 激しいDVに耐えられなくなった稲村こはる(田中裕子)は、夫をタクシーで轢き殺す。そして、子どもたちに「これからは自由に生きていける」という言葉を残して自首する。突然の事態に呆然とする子どもたち。何の前触れもなくいきなり映画はスタートする。

 15年ぶりに帰って来た母に対して、大人になった子どもたちの接し方はぎこちない。アングラ系ライターの二男・雄二(佐藤健)は、母を憎み受け入れられない。家族を持っているが離婚の危機にある吃音症の長男・大樹(鈴木亮平)は、母を避けるというか正面から向き合えない。そして一番年少の長女・園子(松岡茉優)は、事件によるいじめに遭って美容師の夢を諦めたが、素直に再会を喜んでいる。

 この三者三様の母との距離感が、家族の厄介さを様々な視点からより深く物語っていく。母はDVの被害者であると同時に、夫殺しの加害者でもある。自由にしてくれたのか、犯罪者の子どもという縛りを与えられたのか、誰にも正解は分からない。

 映画は、おじさん(音尾琢真)が経営する稲丸タクシーという疑似家族に加え、正体不明の新人ドライバー堂下(佐々木蔵之介)のエピソードも加わり、さらなる視点で観客に家族関係というものを考えさせていく。

 ただ素晴らしい映画にケチを付けたくはないが、物語としてリアリティに欠けるところがある。百歩譲ってカーチェイスはいいとして、15年間何故母から連絡がないのか?嫌がらせが続いているのに何故同じところでタクシー会社をやっているのか?長男の嫁は、何故事件を知らなかったのか?

 腹おちしない部分もあるが、全体としては大好きな映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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