岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

夢を持てなかった青年が音楽で掴む成長譚

2019年12月28日

パリに見出されたピアニスト

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

【出演】ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ
【監督・脚本】ルドヴィク・バーナード

ラフマニノフの魂が見事に反映された素晴らしい演奏シーン

 パリ北駅、雑踏の中に置かれた1台のピアノ。人々は素通りするだけだが、マチュー(ジュール・ベンシェトリ)は惑うことなくその前に座る。彼には騒音やざわめきなど無関係。滑らかな指が奏でるのは、バッハの「平均律クラヴィア曲集 第1巻第2番」。美しい旋律は人混みに溶け込んでしまう。しかし、その演奏を敏感に聴きとった人がいた。それは、パリ音楽院の教授ピエール(ランベール・ウィルソン)だった。

 警察に追われる身だったマチューは、ピアノの前から姿を消してしまう。ピエールは名刺1枚手渡すのがやっとだった。

 マチューはパリ郊外の団地に暮らしていた。生い立ちや暮らしには恵まれてはいなかったが、幼い頃、近くに住んでいた老人からピアノの基礎を教わった。特別な教育を受けていないのに、類稀なセンスと何よりもピアノを愛する気持ちが演奏を輝かせていた。

 友人の窃盗に手を貸した罪で、警察に捕らえられたマチューだったが、ピエールの名刺が救いの手を差し伸べる。

 音楽院での清掃の公共奉仕を条件に釈放されたマチューには、もう1つの条件が科せられる。それは学院の"女伯爵"ピアノ教師のエリザベス(クリスティン・スコット・トーマス)のレッスンを受け、コンクールへ出場することだった。

 音楽への傾倒と強制されることへの反発、その感情の起伏が、バッハ、ショパン、ショスタコーヴィチ、リスト、ラフマニノフの名曲とともに、叙情的に、そして情熱的に表現される。

 マチューを演じたジュール・ベンシェトリはジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に持つサラブレッドで、青年への成長期の苦悩と影を繊細に演じている。

 監督はリュック・ベッソンのもとで助監督を務め、本作が長編3作目となるルドヴィク・バーナード。演奏シーンやパリの街並を美しくとらえた演出は上々だが、クライマックスの描き方に詰め込み過ぎの破綻があるのが少し残念だ。

 パリ北駅に設置されたピアノが日本製であるのはちょっと嬉しい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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