岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

音楽が創造される瞬間を体感する秀作

2019年12月08日

蜜蜂と遠雷

©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

【出演】松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士(新人)
【監督・脚本・編集】石川慶

陰にある苦悩、そこに誕生する奏でる歓びと聴く至福

 『蜜蜂と遠雷』は、芳ヶ江国際ピアノコンクールに集う4人のピアニストを中心に展開する。芳ヶ江は架空の都市だが、原作者の恩田陸は小説執筆のため、実在する浜松のコンクールに取材している。物語はそれぞれが抱える苦悩と現実、音楽に対する思いが描かれる。

 栄伝亜夜(松岡茉優)は幼くして神童と将来を嘱望されていたが、最愛の母の死に直面し、ピアニストとしての声を失い、表舞台からは長らく姿を消していた。

 普段は楽器店に勤めるサラリーマンの高島明石(松坂桃李)には妻子がいる。年齢制限ギリギリの最後の挑戦にかける庶民派のピアニストとして、音楽雑誌にも取り上げられ、担当の雑誌記者からも、熱い励ましを受けている。

 マサル・カルロス(森崎ウィン)はジュリアードの王子と呼ばれ、コンクールでは本命視されているが、演奏は常に楽譜に忠実に正確無比であれ、という師の教えには疑問を抱いている。

 風間塵(鈴鹿央士)は正規の音楽教育とは無縁で、音楽界では無名の存在だったが、今は亡き伝説のピアニスト・ホフマンの最後の弟子として、コンクールに送り込まれた逸材だった。

 監督の石川慶は愛知県豊橋市出身。その経歴は異色で、大学で物理を学んだ後、映画監督を志し、ポーランドの国立大学ウッチ映画大学に留学している。長編第1作は『愚行録』(2017)で、そのオープニングショットから円熟の凄みを感じさせた。バスの側面から車内に続く移動撮影、不機嫌そうに見える乗客を舐めるように映し出し、これからはじまる物語の不穏な雰囲気を予告させる見事な長回しだった。

 1次予選から3次の決勝まで続くコンクールの演奏シーンは、ダイナミックに、繊細に、役者の演技と音楽との調和を計った演出が秀抜。夜のピアノ工房の連弾、闘いの合間の砂丘での戯れ、海上に見える遠雷の稲光など、随所に美しく印象的な映像が散りばめられている。音=音楽を主役に、演奏=創造する歓びを通して、観客にも音楽の素晴らしさを教えてくれる秀作である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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