岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

過酷な現実を生きる人々を見つめた傑作

2019年11月30日

存在のない子供たち

©2018MoozFilms

【出演】ゼイン・アル=ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
【監督・脚本・出演】ナディーン・ラバキー

あなた達の罪は僕を産んだ事だ!

 中東ベイルートのスラム街が映し出される。そこにはいつも埃が立ち込めている。乾燥地帯の砂埃か、舗装されていない道路から立ち上がる土埃か。そこに生活する人々は様々で、肌の色も異なり、国から逃れた人たちもいる。

 ゼインはそんな街の片隅に暮らす。何人もいる弟妹を率いて、雑用のような仕事をして小銭を稼ぐ。過酷に見える生業にも、生きるための力強い工夫と決意がうかがえる。

 ゼインの両親には生活設計が見えない。子作りには長けているのに、食べていくための手段には利用しても、その子らに注ぐ愛情は稀薄だ。

 まだ、幼いゼインの妹の嫁入り話を進めているが、そこには見返りを期待する政略の意図が見える。いや、それよりも酷い身売りにさえ思える。ゼインはそれを察知して、両親に縁談を辞めさせようと直訴するが…。

 監督のナディーン・ラバキーはレバノン生まれで、第1作『キャラメル』(07、 日本公開09)では、女性群像劇の主演を兼ね、恋人の帰りを待ち焦がれるヘアーサロンの女主人を演じている。本作では、主人公のゼインをはじめ、出演者の多くを役柄に似た境遇を生きる素人にあてている。ドキュメンタリーかと見紛うほどのリアルな描写は、そういう演者のありのままの感情を引き出す演出手法による。

 妹の縁談を阻止する試みは、両親の力の前にあっけなくはねつけられ、ゼインは家を出ることを決意する。行くあてのないまま辿り着いたのは、営業が終わった商業施設の片隅だった。

 ゼインはそこで、掃除婦をしているエチオピアからの移民の女性と出会う。彼女は不法入国者で仕事も不法就労にあたり、幼い子どもは狭い掃除道具置場に隠していた。戸籍のないゼインと不法移民の女性は、ともに存在のない運命で結ばれる。

 終盤、保護収監されたゼインは、裁判を起こして両親の罪を訴える。「僕を産んだ罪」―愛されるという当たり前の権利を求める少年の声と涙に潤んだ純真な瞳は、見る者の心を打つ。そして、強く世界に訴えかける。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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