岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ちょっと面倒くさい母娘の成長譚を描いた初々しい映画

2019年11月15日

いつかのふたり

©2019 DMC´S

【出演】中島ひろ子、南乃彩希、石川樹、真下玲奈、鈴木ヨシエ、長尾元、吉本ひなた、仁科貴、 田中隆三、霧島れいか、岡田義徳
【監督・脚本】長尾元

監督の意図が分からず、麻子が迷惑としか捉えられなかった自分が恥ずかしい

 この映画を観終わって外へ出ると、支配人がお客さんに「監督がいらっしゃいますよ」と案内をしていた。外を見ると、少し派手目なファッションにテンガロンハットをかぶった長尾元監督が出迎えてくれている。シャイな私はさっとトイレに向かい、目を合わせない様にして館外へ出た。正直、観た直後は整理しきれず、粗ばっかり目立って何を喋ったらいいか分からなかったからだ。

 映画評を書こうと、いつもの様に最初から最後まで何度も反芻しながら考えているうちに、もしかしたら黒沢清監督の助監督だった28歳の監督が、「あんた、作家性がどうのこうのと勝手に期待してんじゃねえよ!ちゃんと観て考えろ」と、言っているような気がしてきた。何の予備知識も無く観たのだが、直後の思いと日頃の言動とのギャップに、我ながら自分の未熟さを感じずにはいられなかった。

 その一番の原因は、主人公の麻子(中島ひろ子)の行いだ。特に伊香保温泉の旅館の部屋で、趣味のレザークラフトの糸を通す穴を、迷惑を考えずトントントントンと大きな音を立ててあけているシーン。「そんな事する奴いねーよ。段取り芝居極まれり」と嫌悪したのだが、これ、自分がやりたいことを今すぐやらねばならないという強迫観念にかられた行為で、発達障害のひとつの典型じゃんと後から気が付いたのだ。

 よく考えたら最初から「偶数しばり」などの粘着質的なこだわりや、来るなと言われても平気で行ってしまう空気の読めなさなどから、彼女が発達障害だと分かってくる。

 娘の真友(南乃彩希)は不登校。レザークラフトの鈴木先生(霧島れいか)は、言われた相手の気持ちなど全く考えない強烈な毒舌家。一概には言えないが、みんな発達障害が背景にあると考えられるのだ。

 監督の意図が分からず、麻子の行動が迷惑としか捉えられなかった自分が恥ずかしい。ちょっと面倒くさいキャラの母娘の成長譚を描いた、初々しい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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