岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

おかしな親子の独り立ちまでの物語

2019年11月15日

いつかのふたり

©2019 DMC´S

【出演】中島ひろ子、南乃彩希、石川樹、真下玲奈、鈴木ヨシエ、長尾元、吉本ひなた、仁科貴、 田中隆三、霧島れいか、岡田義徳
【監督・脚本】長尾元

一緒にいて見えないこと、離れていたから見えなかったこと

 東京に住む母と娘は、それぞれが独り立ちの時を迎えようとしていた。引率する別れた父親に娘を託し、深夜バスに乗る娘を見送った母・麻子(中島ひろ子)は、手芸店でレザークラフトのスターターキットを何気なく手に取る。ひとり部屋に戻ると、素材と道具をテーブルに並べて準備万端の様子。

 大阪に到着した娘・真友(南乃彩希)と父・隆弘(岡田義徳)は、高校卒業後に書生として弟子入りする小説家と対面する。大阪に来るのはまだ先の話なのに、何故か真友は住まいの部屋探しを始める。一方、隆弘と小説家は意気投合し、娘のことはそっちのけで酒盃をかわす。

 東京に戻った真友は、母との普段の生活に戻る。留守の間に始まったレザークラフトは、否定もしないし、積極的に関わるでもない。母と娘の微妙な距離感が見える。真友は学校をサボり、古書店のアルバイトをしている。確信犯の堂々とした振る舞いが、彼女のきっぷの良い個性。

 麻子は居酒屋で働き、店主とは気のおけない関係で、似たもの同士の母娘であることが分かる。『いつかのふたり』はそんなふたり+父親のほぼ1年を見つめた物語である。

 麻子はフリマ会場で知り合ったレザークラフト作家のさえ子に、ストーカーのごとくつきまとったり、偶数シバリという、ちょっとおかしなこだわりがあったりと奇行が目立つ。

 真友の自由奔放さは、放任ではない母の優しさに育まれたものだが、娘も母の危うさを危惧し、自身も年ごろの乙女の脆さを持っている。

 真友は冬休みに親子3人の温泉旅行を計画するが、家族の修復を願う下心は玉砕し、母娘の緊張関係のバランスは崩れ、父親の家へ逃げ込むことになる。その結果、離れたことで母の本心を理解し、一緒に住むことで、知らないでいた父の思いに触れることになるのだが…。

 監督はこれが第1作の長尾元。別々の場所で展開する母娘の行動をカットバックで繋ぐ技巧派の片鱗も見せつつ、処女作に相応しいハートウォーミングな作品に仕上げている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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