岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

世間の「普通」とはちょっと違った2人が、お互いを補い合いながら成長していくバディムービー

2019年11月16日

トスカーナの幸せレシピ

©2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO

【出演】ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ
【監督・脚本】フランチェスコ・ファラスキー

精神病院が無いイタリアならではの、人間の持つ可能性を信じた素晴らしい映画

 イタリアには精神病院が無い。1978年に制定されたバザーリア法により次々と精神病院が廃止され、地域で支える仕組みに変わっていった。本作の舞台のひとつ、障害者の自立支援施設「サン・ドナート園」も実に解放的であり、社会に向けて開かれている。

 その施設に、刑期短縮と引き換えに奉仕活動を命じられた、短気で暴力癖はあるが腕利きの料理人アルトゥーロ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)がやってくる。そこにいたのが、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の青年グイド(ルイジ・フェデーレ)だ。彼は、コミュニケーションは不得意だが、料理のソースの材料は一口食べればすべて分かるという驚異的な味覚の持ち主だった。

 本作は、こういう世間の「普通」とはちょっと違った個性的な男2人が、お互いの強さと弱さを補い合いながら成長していくバディムービーである。

 原題は「Quanto basta(適量、ほどほどに)」で料理の調味料の分量のこと。自分の思う通りにいかないとすぐ暴力をふるい、「三流店には腕が立ちすぎ、一流店には評判が悪すぎる」と評されるアルトゥーロや、アスペ特有の決まった行動はてこでも変えないグイドには、皮肉の効いた題名である。こういう曖昧な概念が楽に生きていく術であり、この2人が少しずつ分かっていくのが、見ていて微笑ましく応援したくなってくる。

 一方で、2人の頑固さ、こだわりの強さは決して悪い事ではない。決勝で、最後にココアをふりかけず失格に終わったグイドだが、アルトゥーロの師匠は味では勝っている事を認める。アルトゥーロは言う「世界に必要なのは、完璧なトマトソースだ !」。

 施設に通う若者たちを支援する臨床心理士のアンナ(ヴァレリア・ソラリーノ)は、彼らを障害者としてではなく、個性豊かな人間として自主性を尊重し、伴走していく。人間の持つ可能性を信じた素晴らしい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (6)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る