岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

御家の一大事に挑む引きこもり侍

2019年11月17日

引っ越し大名!

©2019「引っ越し大名!」製作委員会

【出演】星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか
【監督】犬童一心

もうひとつのリアルは大目に見て楽しもう

 映画がリアリティに向かうのは表現の怠慢だと言った批評家がいた。また、映画はリアルに嘘をつくものと言った監督もいた。どちらも言い得て妙ではある。CGやVFXの進化は、実写とアニメの境目をなくし、被写体は生身との区別ができないほどになり、背景のみが実写という逆転現象が起きている。これはリアリティの追求が生み出したニアミスかもしれない。

 SFやファンタジーの表現が現実=リアルに近いかたちで可能となり、時空を超える時代劇はその恩恵に与ることになる。江戸時代の町並みや合戦の群集をセットや人海に頼ることなしに、再現が可能となった。

 日本映画にあって、時代劇は純然としたジャンルとして君臨していたが、映画業界の衰退と歩調をあわせるように、一時は絶滅を危惧するまでになった。高視聴率で定番だったテレビのシリーズドラマですら打ち切りが相次いだが、ここのところ復活の兆しが見える。

 時代劇の変化の一端を担ったのは、硬直化していた概念からの脱皮で、その発端は2003年に発刊された「武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新」(新潮新書)による視点の変化であろう。『引っ越し大名!』は、その系譜に位置しており、一大プロジェクトであった藩の引っ越しという事業に特化したネオ時代劇である。

 姫路藩主の松平直矩(及川光博)は、時の権力者・柳沢吉保の機嫌を損ね、日田(大分)への国替え=引っ越しを言い渡される。その責任者である引っ越し奉行として白羽の矢が立ったのは、藩の書庫番で人づきあいはすこぶる苦手な引きこもり侍・片岡春之介(星野源)だった。

 移動する人数1万人、距離は600キロ、経費の引当金はなしという難関。その一大事を救う無名武士たちの知恵と工夫の格闘が描かれる。

 セリフの言い回しなどは、時代考証にうるさい人に突っ込まれそうなほどに現代風。登場する武士も、堅物、裏切り者、人情派と、定番からは今ひとつ脱し切れていないという弱みもあるが、話の展開はスピーディーで飽きさせることなく見せる。もうひとつのリアルに目をつむれば、楽しめる娯楽時代劇になっている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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