岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

自身に潜む負の感情を直視させられる傑作

2019年10月19日

よこがお

©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

【出演】筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤連、小川未祐、吹越満
【編集・脚本・監督】深田晃司

好きになった人が自分から離れていく恐怖、嫉妬、孤独と裏切り…

 深田晃司監督の新作『よこがお』は人間の内面を鋭く描き、他人との関係性までも考えさせられる傑作である。本作では主人公・市子(筒井真理子)の転落と復讐を描いてはいるが、この映画はそれほど単純な話ではない。まず、構成からして複雑だ。現在と過去、2つの時制を行き来し、現在時制で復讐、過去時制で転落のストーリーが展開する。この2つの時制は主人公の髪の長さによって区切られており、そこで語られるのは人間の心の闇、弱さである。

 市子の秘密を握り、彼女の人生を狂わせていく基子(市川実日子)。市子に友情以上の感情を抱いており、市子の結婚を知ったことでその想いが暴走していく。しかし、この基子の感情は自身にも大いに当てはまるものがある。形はどうあれ、友人や恋人といった好きになった人が自分から離れていく恐怖、嫉妬、そして感じる孤独と裏切られたという思い。振り向いて欲しいがためにする嫌がらせは、誰しもが身に覚えのあることではないか。その結果、相手に嫌われてしまうことも含めて。

 そして、市子もまた基子の言葉に流され、甘い考えを持ったことから転落していくことになる。この他人の言葉で自己を正当化してしまう弱さも、また誰しもが持っている感情だ。そんな市子の復讐も、他人を傷つけながら進行する自分勝手なものである。自身は基子に陥れられたという被害者意識が先行し、それによって傷つく第三者のことなど視界に入っていない。

 この映画最大の魅力は自身に潜む負の感情や弱さや闇を抽出し、具現化したようなキャラクター造形にある。そして、こうした登場人物を客観的に描いているために自身の嫌な部分を直視させられる。直視させた上で、その感情とどう向き合うかは自分で考えろと言わんばかりの終わり方。深田監督の人間を観る鋭い目と決して安直に答えを明示しない映画作りが、作品に深みを与えている。

 そもそも、この映画の投げかけた問いに答えなど存在しない。自身を見つめ、人との関係性について考える。そんな時間もこの映画の一部であり魅力である。これを機に自分自身と向き合ってみてはいかがだろうか。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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