岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

タブーを乗り越える極上の恋愛劇

2019年10月06日

あなたの名前を呼べたなら

©2017 Inkpot Films Private Limited, India

【出演】ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギータンジャリ・クルカルニー
【監督・脚本】ロヘナ・ゲラ

インド社会にある身分制度や階級意識は名前すら呼べない

 インド西部マハーラーシュトラ州。デカン高原の山に囲まれた小さな村にある実家に、ラトナ(ティロタマ・ショーム)は里帰りしていた。一番の気がかりは妹だったが、案の定、進路のことで揺らいでいた。そこに雇い主から至急戻るようにと連絡が入る。後ろ髪を引かれる思いだったが、弟のバイク、乗合タクシー、長距離バスを乗り継ぎ、大都会ムンバイに戻って来る。勤め先は高級マンションにある一室で、そこで住み込みのメイドとして働いていた。帰還後間もなく、雇い主のアシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)が憔悴した様子で帰宅する。彼は建設会社の御曹司で海外での挙式を控えていたが、直前に婚約者の浮気が発覚し、破談になってしまったのだった。

 インドには今もカーストという身分制度が存在する。雇い主と使用人は対等にはなれない。クラス(階級)意識は強く、使用人は”わきまえること"が鉄則で、雇い主は"わきまえろ"と暗黙のプレッシャーをかける。厳密にはこのクラスはカーストとは違うが、経済的な地位や教育程度、育ちの良さが、そこに明らかな生活の格差を発生させている。雇い主と使用人は決して交わることはない。

 アシュヴィンはそういう一般的な雇い主とは違い、使用人のことを気遣う優しさを持っていた。ラトナは傷心の雇い主に自らの身の上を話す。19歳で親に決められた先に嫁ぐが、わずか4ヶ月で夫は病死してしまう。嫁ぎ先に縛られる理不尽さに耐え、今はムンバイで妹の学費を稼げることに喜びを感じていた。

 アシュヴィンはアメリカでライターとして働いていたが、突然の兄の死で呼び戻され、建設会社の後継にさせられた。経済的な不自由はないが、それは決められたレールの上を行くこと、結婚も親の決めたことだった。

 実家のために夢を諦めたアシュヴィンと夢に向かって生き生きと働くラトナ。身分の違いと社会にはびこるご法度の壁を越える純愛のようなラブストーリーは強く胸を打つが、インドではまだ、あり得ない物語らしい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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