岐阜新聞 映画部

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信念の女性を描いてきた監督が、初めて挑戦したシチュエーション・コメディ

2019年10月05日

ニューヨーク 最高の訳あり物件

© 2017 Heimatfilm GmbH + Co KG

【出演】イングリッド・ボルゾ・ベルダル、カッチャ・リーマン、ハルク・ビルギナー
【監督】マルガレーテ・フォン・トロッタ

夫の事情や都合などは何の考慮もされないところが、むしろ痛快

 『ローザ・ルクセンブルク』や『ハンナ・アーレント』など、強い意志を持って生きる信念の女性を描いてきたドイツのマルガレーテ・フォン・トロッタ監督が、70歳を超えて初めて挑戦したのは、対照的な2人の女性のぶつかり合いと攻防を描くシチュエーション・コメディであった。

 ニューヨークの高級アパートメントを舞台にした本作は、真面目なドイツ人が作ったコメディ映画らしく、滑稽な仕草やギャグなどはほとんどなく、登場人物の置かれた状況や場面設定によって笑わせる。当人たちの大真面目な振る舞いと鋭い毒舌が、観客に笑いを呼び起こすのだ。

 実業家のニック(ハルク・ビルギナー)は「女は若いうちが華よ」とばかりに、妻が40歳になるとサッサと別れて次の若い女性とくっついていく。先代の妻マリア(カッチャ・リーマン)と当代の妻ジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)も40歳になった途端、ニックと連絡が途絶えてしまう。そんな中、ニックが残したアパートメントの居住権を主張する2人が共同生活をする羽目になり、そこで巻き起こる価値観の違いによるドタバタというのが、この映画のシチュエーションだ。

 例えば、ジェイドが家に飾っていた抽象絵画を悪趣味としてマリアが撤去したり、ジェイドの観賞用のお皿をマリアは料理の盛り付けに使ったり、ジェイドがダイエットのためのに行っているお粗末な食事に対しマリアは栄養のバランスを考えながら美味しく料理を作ったり…。人生経験豊かなマリアの方がチョット優位なのは監督の思い入れなのかもしれないが、ジェイドのように生き馬の目を抜くようなニューヨークで闘っていくには、これもありなのかなと思わせてくれる。

 そして、2人の共通の夫ニックの事情や都合などは映画の中で何の考慮もされないところが、むしろ痛快である。ニックのダメさ加減が滑稽。金持ちドン・ファンは、女性たちの笑いの種にした方がいいのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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