岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

新聞記者の本分への模索

2019年09月21日

新聞記者

©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

【出演】シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
【監督】藤井道人

憶測を真実の提示に変えられないジレンマ

 東都新聞の女性記者・吉岡(シム・ウンギョン)に匿名のFAXが届く。そこにあったのは、大学新設計画に関する極秘情報だった。彼女は日本人の父と韓国人の母のもとに生まれ、アメリカで育ったという帰国子女の設定。真実探求の記者魂を突き動かす原動力は、元新聞記者の父の死に関する思いがあった。

 内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は外務省からの出向だったが、与えられる任務に不信感を抱き葛藤していた。外務省時代の元上司・神崎(高橋和也)と久しぶりに再会するが、彼はその数日後に自殺する。

 敗戦後まもなく、社会派映画という一つのカテゴリーから多くの作品が生まれた。映画にジャーナリズム的な役割があることは否定しない。映画が社会を変えるという幻想は、社会的な告発を提示することを可能とした。しかし、映画はまた、娯楽であり商品でもある。作り手はこの葛藤の中で、社会派エンタテイメントなる着地点を模索した。その時代の流れは民衆運動から学生運動へと移行した時代にほぼ寄り添い、その運動の終息とともに、社会派映画も衰退してしまった。運動の原動力は権力に抗うことだっただろうか?

 『新聞記者』は“いま”=現在進行形の政治権力に向き合っている。例えば、匿名のFAXは大学新設に関する情報だが、これは少し前までの報道で目にし耳にしたものを想像させる。また、役所内の職務が時の政権の都合に左右されるという、いわゆる“忖度”が暗示されたりする。

 新聞記者の本分とは何だろうか?吉岡には真実を明らかにしようとする信念はあるが、彼女の姿勢は基本的には“待ち”にすぎない。暗い部屋で深刻な表情をしてPCのモニターを見つめる。行動として見えないことにイラつくのは、依怙だろうか?正義を貫こうとする役人の苦悩が、その生死に関わろうとも、省内の勢力争いに見えてくるのは穿った見方だろうか?

 真実の探求という本分を貫くならば、現実と幻想に境目をつける事なく、映画の本筋に捏造を感じさせてはならない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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