岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アイデンティティに苦しみながらも、自己実現していく姿を描いた成長物語

2019年09月20日

Girl/ガール

© Menuet 2018

【出演】ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ
【監督・脚本】ルーカス・ドン

生きるための映画。最後のララの覚悟は、映画としては必要。

 社会的進歩による人間の価値観は、差別を禁止し自由競争に参加できるという形式的平等から、社会的弱者の社会権を保障し結果の平等を確保すべきであるという実質的平等に移行しつつある。今は逆ブレしている感が強いが、長い目で見れば変わってきている。

 そのひとつである人類の性の多様化は、LGBという性的指向でカテゴライズされるだけでなく、T(トランスジェンダー)とかQ(クエスチョニング)などさらに細分化されてきている。

 本作は、トランスジェンダーに含まれる「性同一性障害」のララ(ビクトール・ポルスター)が、男女の役割が明確であるバレエの世界で、自己のアイデンティティに悩み苦しみながらも、自己実現していく姿を描いた成長物語である。

 ララに対して理解がある父は、性別適合手術の準備も一緒に進めてくれる。トライアル期間を乗り切って無事入学が決まったバレエ学校では、女性として受け入れられている。個人の人権や自由権が保障された環境ではあるが、第二次性徴を迎えているララは、姿見に写る胸や下腹部を見て、ますます違和感を感じるようになってきた。バレエの練習の度、下腹部に粘着させるテーピングの痛々しさは、ララの心の叫びだ。

 興味本位で接してくるバレエの仲間もいる。父には新しい恋人もできた。手術の時期は決まらない。ララは、次第に追い込まれ思い詰めていく。

 カメラは、ララの顔の表情や仕草、着替える際の裸の身体を、余すところなく追っていく。と同時に、トウシューズの中の血まみれになった指や厳しく激しい練習の様子も、トランスジェンダーかシスジェンダーかに関係なく、冷静に見つめていく。実力の世界は、個人的事情など何の考慮もしてくれない厳しさも描き出す。

 最後、心悩んだララは、ある重大な決断をする。目を背けたくなる痛々しさではあるが、それはララの覚悟を表しており映画としては必要なのである。生きるための映画なのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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