岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

バレリーナを夢見る少女のある決断

2019年09月20日

Girl/ガール

© Menuet 2018

【出演】ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ
【監督・脚本】ルーカス・ドン

寄り添い理解することで痛みの共有はできるのか?

 15歳になったララ(ビクトール・ポルスター)はバレリーナになるため、バレエ学校への入学を目指し、ただでさえ難しい進学のため、学校のあるフラマン語圏地区に引っ越してくる。ベルギーではフランス語とフラマン語(オランダ語)が公用語として使われているが、フラマン語は北部に多く、ララの一家はフランス語圏からわざわざやって来たのだった。そして、そこにはもうひとつ越えなければならない壁があった。それはララが肉体的には男性だが、心は女性というトランスジェンダーであることだった。

 ベルギーにおけるLGBTへの理解度は、どのくらいなのかということは想像するしかない。この作品では主治医、バレエ学校の教師、同級生たちはララのことを理解できているにせよ、その対応は事務的であったり、おざなりであったりする。ララには弟がいるのだが、世話を焼く姉(兄)のことを疎ましく思う部分は隠せないにしろ、現実を素直に受け止めてはいる。一番の理解者であるのは父親のマティアス(アリエ・ワルトアルテ)で、父子家庭である不自由さを微塵も感じさせることなく、ララを献身的に支えている。時にはそれがデリカシーを欠くほどに深入りするから、親子の間には緊張感が漂ったりする。

 難関のバレエ学校への入学を認められたララは、毎日の厳しいレッスンに耐えるが、肉体と精神のバランスは限界点に達していた。

 個人的な話になるが、遥か昔、トランスジェンダーの友だちがいた。彼…出会った頃は男であったのでそう呼ぶが…と久しぶりに再開した時、伸びた髪と化粧という表装以外にも、肉体的な変化があった。ふっくらとした胸=乳房はもちろんのこと、身体のシルエットがあきらかに違っていた。ホルモン剤注射を打つために、産婦人科にも付き添った。

 ある日、高熱が出て、夜間の診療所に駆け込んだことがあった。女性用の下着を使うようになって、彼は男性器をテーピングしていたため、炎症を起こして腎盂炎にまで悪化してしまったのだ。今ほどに浸透していない世間の視線には、好奇以上のものが混ざったりもしていた。それからしばらくして、彼とは疎遠になってしまったが、ある日、電話で性転換の手術を受けたと知らされた。彼の選択と決断は緩やかなものであったのかも知れない。

 ララも生まれ持った自らの肉体を嫌悪する。最後の選択は痛く辛いが、その決断を当事者ではないものが批判するのは正しくない。彼が彼女となった決断の痛みも同じものに違いない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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