岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

世紀末美術革命を体現するドキュメンタリー

2019年09月07日

クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代

© Belvedere, Wien

【出演】ロレンツォ・リケルミー、リリー・コール、エリック・カンデル、ルドルフ・ブッフビンダー、ジェーン・カリア
【監督】ミシェル・マリー

圧倒的な装飾美 膨大な情報には予習と復習が必要かも

 1898年、オーストリアのウィーンでは、新進の芸術家グループ“分離派”が、自らが建てた展示施設の入口に、金文字のスローガンを掲げた。そこには「時代には芸術を、芸術には自由を」と書かれていた。世紀末のウィーンではハプスブルク家の統治時代からの、古き良き芸術が音楽を中心に繁栄していたが、分離派にはその古い体制を打破る気概が満ちあふれていた。その中心にいた画家が、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレで、そこには人間の不安や恐れがエロスとともに描かれていた。

 『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』は、ウィーンに点在する美術館を巡り、黄金時代の始まりと終わりを解説するドキュメンタリーで、その視点は絵画美術にとどまらず、工芸、デザイン、建築、写真、音楽と広域に及ぶ。また、医学的なスタンスから、フロイトの心理学にも言及しており、その情報量は膨大なものとなっている。

 世紀末のウィーンには、伝統と格式を重んじる傾向が強く存在した。美術で言えば、ゴシック、ルネサンス、バロックの様式を継承する“ネオ様式”がその主流で、様式の模倣は後ろ向きであった。そこに現れたのがクリムトで、金箔や宝石をモザイクのように用いたエレガントな肖像画は、センセーショナルな登場であった。クリムトのそれには、心理学者フロイトが探索した「エロス=性の衝動」と「タナトス=死の衝動」の表出が見られたが、2人には接点はなかった。時の流れが生み出したに違いない関心の対象が、同じであったという事実は興味深い。

 映画はクリムトの後を継ぐシーレに触れ、ねじ曲がった身体と苦悶の表情に代表される、異端のテーマに焦点を当てている。また、ヨーゼフ・ホフマンによる工芸品の革命=ウィーン工房。近代建築の先駆者オットー・ワーグナーといった芸術家を紹介している。

 圧倒的な情報量を理解するのは至難だが、吹替のナレーション(柄本佑)構成が手助けにはなる。でも、予習、復習は必要だろう。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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