岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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高齢社会を生きるヒント

2019年08月23日

兄消える

©「兄消える」製作委員会

【出演】柳澤愼一、高橋長英、土屋貴子、金内喜久夫、たかお鷹、原康義、坂口芳貞、新橋耐子、雪村いづみ、江守徹
【監督】西川信廣

放蕩な兄がクソ真面目な弟に火をつける

 信州・上田で町工場を営む鈴木鉄男(高橋長英)は、100歳で大往生した父親の葬儀を終えたばかり。その父から受け継いだ工場の経営は上手くいっているとは言いがたく、細々としたものだが、76歳の鉄男にもそれなりの気概が伺われる。いつもながらのパンとコーヒーの朝食には、やもめ暮らしの侘しさが漂う。

 父親を送りひとりになった鉄男は、幼馴染みや近所の仲間たちと慰めの酒宴を囲む。昭和の香りがするスナック“ババロア”のママからも「嫁をもらえ」と焚きつけられるが、これを期に生活を変える気持ちが高まるわけでもない。

 そんなある日、40年前に突然姿を消して以来、父親の葬儀にも顔を見せることのなかった兄の金之助(柳澤愼一)が帰ってくる。80歳になる金之助には歳の離れた女・樹里(土屋貴子)が同伴していたが、銀行員だったという彼女にはワケありの様子が見え隠れする。

 『兄消える』の企画のはじまりは、『八月の鯨』(1987年、リンゼイ・アンダーソン監督)にあるという。小さな島に暮らす老姉妹のひと夏を瑞々しく美しく描いたこの映画は、リリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスという、伝説の女優がつくる神々しいまでの演技デュエットが素晴らしかった。そんなコンビを彷彿させる柳澤愼一と高橋長英が、この兄弟キャスティングに反映されている。

 柳澤愼一が軽妙洒脱なコメディアンぶりを発揮していた時代を残念ながら筆者は知らない。しかし、アメリカのテレビドラマ「奥様は魔女」のダーリンの吹き替えの声の記憶は鮮明にある。

 高橋長英の最初の記憶は『音楽』(1972年、増村保造監督)だが、三島由紀夫の小説を原作にしたこの映画には難解だったというトラウマがあり、曖昧な印象になってしまうが、演劇色の強い演技アンサンブルで存在感を示していた。

 高齢兄弟を主人公にした『兄消える』には、今を生きるヒントがたくさん散りばめられている。オリジナル脚本は戌井昭人で、日本映画には皆無の題材を好編に仕上げたセンスと挑戦が光る。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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