岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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軽やかな兄と硬派な弟の、40年ぶりの兄弟げんか

2019年08月20日

兄消える

©「兄消える」製作委員会

【出演】柳澤愼一、高橋長英、土屋貴子、金内喜久夫、たかお鷹、原康義、坂口芳貞、新橋耐子、雪村いづみ、江守徹
【監督】西川信廣

粋でいなせでお洒落でカッコよく生きたいものである

 私にとっての柳澤愼一さん(86歳)は、石原裕次郎・三國連太郎共演の海洋アクション映画の傑作『鷲と鷹』(1957年)で演じた、海洋丸のコック長・おっかあである。いつもニコニコしている乗組員のムードメーカー役で、名だたる助演陣の中でも出しゃばり過ぎずに印象に残るという絶妙な立ち位置だった。

 バディ役・高橋長英さん(76歳)は、直近では今年公開の『カスリコ』で演じた伝説の賭博師・寺田源三役が実にカッコよかったが、映画ではやはり伊丹十三作品の一連の脇役が印象的である。

 本作は、この後期高齢者の2人が初めて共演した映画で、2人にとっては使い走りの年齢である文学座の舞台演出家・西川信廣(69歳)が初監督した、「キラキラ映画」ならぬ「シワシワ映画」である。

 映画は老人となったアリとキリギリスのような話だが、加齢臭よりも昭和臭が漂う信州・上田の街で、40年ぶりの兄弟げんかが始まる。久しぶりに故郷に帰って来た兄・金之助を演ずる柳澤さんは、遊び好きで明るくカラッとした若い頃の印象そのまま、それまでにあったであろう苦労など「知ったもんか」という風に軽妙洒脱に演じており、お洒落でダンディな姿も相まって実にカッコいい。

 一方、親父の町工場を継いで何とかここまで持ちこたえてきた未婚男子の弟・鉄男を演ずる長英さんは、地道で物静かだが存在感のある硬派な老人というズバリの役柄で、柳澤さんとは対照的に演じており実に上手い。

 脇は文学座のベテラン俳優たちが手堅く務め、演出は奇をてらわず安定しており、セリフも「まぁ人生なんて、もともと無駄なことはないんだから」などとチェーホフみたいに心地よい。そして「まだまだ生きようぜ」なのだ。

 アメリカの俳優のように、ジジイになってから麻薬の運び屋や銀行強盗をやるのもいいが、この映画のジジイのように、最後まで粋でいなせでお洒落でカッコよく生きたいものである。とてもいい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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