岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

名カクテル「雪国」誕生秘話

2019年07月27日

YUKIGUNI

©いでは堂

【ナレーション】小林薫
【監督・脚本】渡辺智史

バーテンダー井山計一を見つめる穏やかな時間

 山形県酒田市に“ケルン”はある。昼間は自家焙煎の珈琲を出す喫茶店として営業している。陽の落ちた夜にはBARに変わる。棚にはよく磨がかれたグラスと、様々な酒瓶がずらりと並ぶ。カウンターにはバーテンダーの七つ道具がステンレスの鈍い輝きを放っている。そこに立つのは店主である井山計一さん。大正15年生まれの御齢92歳。白いシャツに黒の蝶ネクタイとノーカラーベストに身を包む。ぴんと伸びた背筋も矍鑠として見える。アイスピックやマドラーを巧みに使い、洒落た手つきでメジャーカップに酒を移す。店内に響くのはシェイカーがたてる軽快な音。目に見えるもの、耳に届くもの、全てが心地良さを醸し出す。

 『YUKIGUNI』はそんなBARケルンの2年半の日常を見つめ、スタンダードカクテル「雪国」の誕生秘話と創作者井山計一さんの半生を描いたドキュメンタリーである。

 井山計一さんは20歳の時、終戦を迎える。様々な職に就いたが、すぐに故郷酒田でプロのダンス教師として開業した。27歳の時、突然転身して仙台へバーテンダーの修行に出る。この行動力は穏やかな外見からは想像できない。59年、壽屋(現・サントリー)が開催した“全国ホーム・カクテル・コンクール”にカクテル「雪国」を出品して、グランプリを受賞する。安酒主流の酒場文化の中、花開いたスタンダードカクテル誕生の話は、発明者と同様に慎ましやかだが面白い。

 撮影中に井山さんは長年連れ添った妻を亡くす。気丈に店に立つ父の姿を見て、わだかまりを抱いていた娘・真理子さんが、初めて父の作るカクテル飲むシーンは感動的だ。

 筆者は下戸である。カクテルはソルティードッグくらいしか呑んだことがない。チャンドラーの「長いお別れ」に登場するギムレットのことくらいは知っているが…。「雪国」は甘いお酒らしい。映画の後は必ずや味見したくなる!

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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