岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

トリアー監督の挑発的仕掛けに幻惑

2019年07月02日

ハウス・ジャック・ビルト

©2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31,ZENTROPA SWEDEN,SLOT MACHINE,ZENTROPA FRANCE,ZENTROPA KOLN

【出演】マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、シオバン・ファロン、ソフィー・グローベール、ライリー・キーオ、ジェレミー・デイビス
【監督・脚本】ラース・フォン・トリアー

連続殺人鬼が建てようとした家とは?

 例によってデンマークやスウェーデンで撮影しながら、舞台となるのは米国ワシントン州。時代は車や服装から1970年代らしい。

 本作の主人公は強迫性障害(OCD)の連続殺人鬼だ。孤高のピアニスト、グレン・グールドがバッハを弾くドキュメンタリー映像が何度か流れるので、『羊たちの沈黙』のレクター博士と同じ趣味かと連想させるが、それへの言及は全くない。主人公の設定がエンジニアで建築家志望なので、大聖堂の設計図やゴシック建築の構造上のうん蓄も挿入されるが、レクター博士も教会建設時の事故死者数に興味を持っていた。トリアー監督の過去の作品と同様、神の否定が何度か語られるが、エピローグでは地獄への考察を見せる。

 マーベルやDCコミック原作による派手なハリウッド映画が幅を利かせる中、こうした作家性の強い映画は極めて貴重だ。どぎつい殺人シーンが悪趣味との批判は受け入れよう。人間の暗部や恥部を炙り出すのが、この監督の本質。殺人鬼はいかにして生まれ、どのように実行したのか、それぞれのエピソードが興味深い。

 主人公の逃走シーンをブレた手持ちカメラで追うシーンなど、もっと固定カメラでスムーズに撮ればいいのにと思ったりするが、この監督らが若き日に映画を撮ろうと決めた時に自ら課したドグマ(撮影上の戒律)に今も忠実なのか、と微笑ましい。ラストに至って、この映画のタイトルが何を意味するのか分かる。カンヌ国際映画祭の上映では途中退席者が続出したらしいが、最後までじっくり観るべき野心作だ。 

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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