岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ネコの行方不明でざわめき立つ熟年夫婦

2019年06月28日

初恋 お父さん、チビがいなくなりました

©2019西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

【出演】倍賞千恵子、藤竜也、市川実日子 ほか
【監督】小林聖太郎

出会えた頃の気持ちのままで、いられたら…

 熟年夫婦の朝の風景。定年後も属託として会社へ出勤する勝(藤竜也)のために、今日も弁当を作る有喜子(倍賞千恵子)。そこには定番のお菜が並んでいる。朝食の席の会話はない。有喜子のお喋りは独り言のように空回りするだけ、勝は返事とも言えない唸り声で返す。有喜子には話しかければ「ニャア~!」と応えてくれる飼い猫のチビの存在が、夫の勝よりもずっ~と愛おしい。

 確かに日本の男は、家では三音の言葉しか発しないと言われた。「めし・ふろ・ねる」は絶滅危惧種の昭和の男の姿だろうか?高齢化社会が抱える問題として、熟年離婚という言葉が世間を賑わせるようになったのは、いつ頃からか?

 勝は仕事に行かない日には、近くの将棋道場にいる。夕方、買い物帰りの有喜子が道場を覗くと、いつもの場所に勝がいて、入口から手を振る有喜子を見つけても、勝の反応は薄い。女心を分かっていない象徴のようなひとコマ。

 夫婦には3人の子どもがいて、末娘の菜穂子(市川実日子)に有喜子が勝との離婚話を告白したことから、兄姉に召集がかかる。子どもたちと言っても独立しているおじさんおばさんなのだが、この親子の距離感もリアルに描かれている。3人が母から聞かれないようにと生々しい会話を交わすのは、かつては子ども部屋だった場所で、今は荷物置き場と化している。荷物を避けて確保したいのはその夜の寝床で、親の危機を実感として受けとめるにはほど遠い。

 飼い猫チビの行方不明によって、家族の周辺は更にざわめき立つ。チビのことを真剣に取り合ってくれない勝に絶望する有喜子に、追い打ちをかけるように、勝の秘密が露呈する。

 題名にある“初恋”というのは、夫婦の出会いのことを指す。挿入される回想のシークエンスが、初々しく瑞々しく、映画を締める絶妙の効果となっている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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