私立探偵チャールズが観客をナビゲートしてくれる

　謎解きもの本格ミステリー映画の醍醐味といえば、もちろん「犯人は誰か？」に至るまでの推理を楽しむ事である。巧妙に張り巡らされた伏線、仕掛けられたトリック、複雑な人間関係の中を、登場人物の証言や残された痕跡を手がかりに、時に名探偵と共に推理していく。一つひとつ謎が解き明かされていく時のゾクゾクする感覚はカタルシスを呼ぶとともに、自分の推理ガンも確かめられる楽しさがある。

　ミステリーの女王アガサ・クリスティーの「ねじれた家」を映画化した本作は、ポワロやマープルこそ出ないものの、「犯人は誰か？」に至る過程を楽しめる正統派のミステリー映画だ。

　一代で財を成したレオニデス家の当主が殺されるところから舞台の幕は切って落とされる。この大富豪の邸宅に住むのは、前妻の姉（グレン・クローズ）、若い後妻、映画に出資して欲しい長男夫妻、会社が倒産寸前の二男夫妻、長男の3人の子ども、さらに子どもの家庭教師と乳母の総勢11人。さてこの中の誰が犯人なのか？

　長男夫妻の長女ソフィア （ステファニー・マティーニ）が呼び寄せた私立探偵チャールズ（マックス・アイアンズ）は、犯人を追求するというより、分かりやすく状況説明をしながら観客をナビゲートしてくれる。

　ねじれた家に住むゆがんだ心の人々は、嫉妬と妬みがマグマのようになっており、みんなに動機がありそうで、みんなが怪しく思えてくる。そして、それぞれが疑心暗鬼になっていく。

　お話は、一旦もっとも怪しい人物が犯人として捕まった後に第2の殺人が起こり、じゃあ真犯人は誰なんだ？という本格ミステリーの王道だ。結末の付け方は賛否両論あるだろうが、原作が1949年発表という事を考えれば、これもありかなと思う。

　イーディスを演じたグレン・クローズはさすがの貫禄で、ミステリー映画の風格と威厳を醸し出している。昔のタイプの豪華ミステリーである。