岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

遠ざかって行く厳格な父親と寄り添う家族

2019年06月27日

長いお別れ

©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

【出演】蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人
【監督・脚本】中野量太

起こり得る介護という現実を受けとめる覚悟

 東昇平(山﨑努)は教師生活一筋、校長まで務めた仕事人間だった。70歳の誕生日を迎え、2人の娘も揃って帰省し、久しぶりに家族4人が揃うことになった。とんがり帽子をかぶってテーブルを囲んだが、主役の昇平は無表情なまま。母・曜子(松原智恵子)からの電話で呼び出された娘たちに告げられたのは、昇平に認知症の症状が現れ始めているという事実だった。

 『長いお別れ』はこの親子の7年間を描いているが、闘病記などに見られる壮絶さとは無縁で、苦悩や葛藤は時に、父親とは乖離したところで起こる。

 長女の麻里(竹内結子)は、海洋研究所に務める夫の赴任先であるアメリカでの生活に馴染めず、ひとり息子の反抗期も重なり悩みは飽和状態にあった。

 次女の芙美(蒼井優)は、移動販売車ではじめたデリランチの商売がいまひとつ上手くいかず、潮時を迎えようとしていた。

 スケッチという呼び方には語弊があるが、映画は何年かおきに、次第に進行していく昇平の症状を切り取った描き方をしている。親友の葬式での失態、買い物での万引き騒ぎ、生まれ故郷への帰省、トイレへ行くのに手間取って粗相をしてしまうエピソードなど、そこには紆余曲折があるが、いつも寄り添うのは家族で、その様子は負のベクトルに引っ張られていようが優しく美しく見える。

 曜子が網膜剥離を発症して入院している病院に、足を骨折した昇平が入院することになる。この夫婦のエピソードは感動的だが…曜子の深刻に沈みこまないおおらかさが強調されるあまり、彼女が手を汚さないのは気になる。

 認知症は5人に1人に起こり得る、ひとごとと切り捨てることはできない現実だからこそ、万引きを咎める店員たちのような、狭い視点であってはならない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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