岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

認知症の父と向き合った7年間を、涙と笑顔で綴る家族の物語

2019年06月26日

長いお別れ

©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

【出演】蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人
【監督・脚本】中野量太

あなたにとって「帰る」場所とは?

 今年5月に開催された「認知症施策推進のための有識者会議」で、「2025年に65歳以上の約5人に1人が認知症になるとの推計に基づいた予防のための数値目標(参考値)」が公表された。認知症は当人にとっても家族にとっても特別な病気ではなくなってきているのだ。

本作は『湯を沸かすほどの熱い愛』で末期がんの肝っ玉母ちゃんの前向きな「最後の準備」を描いた中野量太監督が、認知症になった昇平(山﨑努)を巡って家族が戸惑い混乱し右往左往しながらも、希望を捨てずに昇平と向き合った7年間を、涙と笑顔で綴った新しい認知症映画である。

 元校長先生の昇平であるが、認知症が進むに従って支離滅裂な言動で、次第に家族とも会話が噛み合わなくなってくる。しかし、今話している相手が誰なのかは忘れてはいるものの、大切な人だとは分かっているようだ。

 明るくチャーミングな妻・曜子(松原智恵子)には、「正式に僕の両親に紹介したい」と真顔で言う。曜子にとっては2度目のプロポーズだ。海外生活で夫や息子に本音で向き合えず泣き出す長女・麻里(竹内結子)には、ネットのビデオ通話で話を聞く。父の期待に応えられなかったと自分を責める次女・芙美(蒼井優)には、縁側で「立派だ」「そうくりまるなよ。そういう時はゆーっとするんだ」と意味不明な言葉で応える。

 たとえ認知症であっても、夫は夫、父は父であり、昇平の家族に対する愛がほとばしる素晴らしいシーンだ。

 昇平が「帰る」と言って家を出て行ってしまう事が何度も続く。これは認知症の心理・行動症状である帰宅願望で、不安やストレスによって起こるらしい。麻里が「家に帰る」と言って夫に「君の家はここでしょ」と言われるシーンがある。では「帰る」場所とはどこだろう?それはきっと、安心して過ごせる場所、家族で一緒に楽しく食事をして、誕生日には三角帽を被る場所なのだ。

 認知症を恐れない真摯な家族映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (7)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る