岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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認知症を家族が絆を深める機会として描いた傑作

2019年06月26日

長いお別れ

©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

【出演】蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人
【監督・脚本】中野量太

この家族はかけがえのない日々を大切な想い出として生きていくことだろう。

 『長いお別れ』は、社会問題としての認知症をリアルに描いた深刻な映画ではない。負のイメージしかない認知症を家族が新たに絆を深める機会として描いた、少々楽観的ではあるけれど前向きな愛すべき作品である。

 この作品の山﨑努はかつては先生をしていて、自分の子供たちにも厳しい、とっつきにくい父親であったようだ。しかし、認知症になり穏やかになった父親に、次女の蒼井優は以前はきっと言えなかったであろう弱音を吐き、癒される。移動式の食堂をしていることを知ると褒めてくれる。

 孫(長女の竹内結子の一人息子)は、認知症になりかけているのに難しい漢字を易々と書く祖父を「漢字マスター」と呼んで尊敬する。

 娘たちは、自分が知らない若き日の父親の事を母親の松原智恵子から聞かされる。その母親は認知症の進行した夫から、再び昔と同じプロポーズを受けて感動を新たにする。

 介護の大変さはあるが、この家族はタイトル通りの「長いお別れ」のかけがえのない日々を、大切な想い出として生きていくことだろう。

 役柄にピタリとハマった素晴らしいキャスティング、ユーモアを交えた豊かなディテール、そして心に響くダイアローグの数々。『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が、またひとつホームドラマの傑作を生んだ。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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