岐阜新聞 映画部

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50年の構想を経て世に放った、ポール・シュレイダーの集大成

2019年06月09日

魂のゆくえ

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【出演】イーサン・ホーク、アマンダ・セイフライド、セドリック・カイルズ、ヴィクトリア・ヒル、フィリップ・エッティンガー
【監督・脚本】ポール・シュレイダー

『タクシードライバー』のトラビス?と思えるほどのインパクト

 駆け出しの映画マニアだった頃、その孤独と狂気に衝撃を受けた『タクシードライバー』(マーティン・スコセッシ監督)から42年、同作の脚本を書いたポール・シュレイダー監督の最新作は、タクシードライバーのトラビスが歳をとって牧師になったのではと思えるほどのインパクトで、私の胸に深く突き刺さる映画であった。

 従軍牧師だったトラー(イーサン・ホーク)の悔恨は、自らが入隊を勧めた息子をイラク戦争で失ってしまったこと。ベトナム戦争と同じく正義も意味もなかったイラク戦争に、愛国心を煽り立てられて行かせてしまった。教会はその時何をしたか?

 環境テロリストと化しつつある信者のマイケルの絶望的な心情に、果たしてトラーは寄り添うことができたのか?命を救う手立てはあったのか?

 彼が勤める小さな教会を維持運営していくのには、ビッグビジネスと化しているメガチャーチの指示に従うしかないのか?多額の献金があれば、環境破壊の会社でも見過ごさなければならないのか?

 トラーは信仰に篤く職務に忠実であるからこそ、信仰と現実の狭間に悩み苦しむ。さらに自分の身体を癌が蝕んでいる。こういった状況を果たして宗教は救えるのか?祈るだけでいいのか?という根源的な問題をシュレイダー監督は我々に問いかけてくる。

 トラーは、内に秘めた狂気をぎりぎり保ってきたが次第にそれが大きくなり、トラビス同様、直接的な行動の準備を始める。一旦は死んだ若者が残した自爆ベストを着てみるものの、思い直して有刺鉄線で身体をがんじがらめにする。血が滲みだし痛みに耐えるその姿は、あたかも磔にされたキリストのようである。

 ポール・シュレイダーが50年の構想を経て世に放った本作は、邦題名「魂のゆくえ」そのものを問うた、まさに彼のライフワークであり集大成となっている。もちろんデ・ニーロに勝るとも劣らないイーサン・ホークの存在感は言うまでもない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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