岐阜新聞 映画部

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政治家を笑い飛ばすアメリカ映画界の凄みを感じる秀作

2019年06月08日

バイス

©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

【出演】クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー
【監督・脚本・製作】アダム・マッケイ

アダム・マッケイ監督の手にかかれば徹底的に茶化される

 権力を揶揄し、その愚かさを笑い飛ばす政治風刺は、物事の裏に隠れる本質をユーモアを交えて庶民に教えてくれる、優れものの武器である。

 日本では最近ウーマンラッシュアワーの政治風刺漫才が話題を呼んでいるが、アメリカの政治風刺はジャンルとして確立されており、徹底的に権力を疑い監視していく手段として、民主主義の重要な役割を担っている。

 毒のあるコメディが得意なアダム・マッケイ監督が本作でやり玉に挙げるのは、実在の政治家チェイニー(クリスチャン・ベール)元副大統領。2018年秋には日本から旭日大綬章が叙勲された人物である。彼の暗躍ぶりはまさにフィクサーそのものであるが、マッケイ監督の手にかかればやることなすこと徹底的に茶化される。

 喧嘩っぱやいヤンキーで飲酒運転で逮捕歴のある青年時代から、理念なんて爆笑のひとつにすぎないラムズフェルドに取り入り、政界をたくみに泳ぎながらパパブッシュ時の国防長官に上りつめる第一期。湾岸戦争で戦争ブレーンとして活躍した後、レズビアンの娘を守るため政界から身を引く。アメリカンファミリードラマとしてめでたしめでたしで、エンド・クレジット。エッ?となるが、ここで終わってれば後の不幸はなかったのに、という強烈な皮肉が炸裂する中盤戦。

 ドラ息子のブッシュ(サム・ロックウェル)に副大統領を頼まれ「面倒な事務仕事は私が担当する」ことを条件に就任する。チェイニーの最大の趣味であるフライフィッシングのごとく最大の雑魚が釣れたわけだ。

 9.11時の事実上の大統領的采配やイラク戦争へ至る欺瞞と煽りとで、彼は頭が空っぽなブッシュを巧みに操っていく。イラク戦争への疑問に対しては「私は選挙で選ばれ、みんなが願う事を実行しただけ」と悪びれる様子は全くない。もうここまでくると笑うに笑えない。

 存命中の政治家をこれだけ笑い飛ばす。アメリカ映画界の凄みを感じる秀作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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