岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

名もなき市井の人たちのささやかな幸せを祈っている

2019年05月18日

希望の灯り

© 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

【出演】フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト、アンドレアス・レオポルト、ミヒャエル・シュペヒト、ラモナ・クンツェ=リブノウ
【監督・脚本】トーマス・ステューバー

夜になるとかかる「G線上のアリア」は、みんな包み込んでくれる

 東欧社会主義の優等生と言われていた東ドイツであったが、経済状況への不満や民主化要求はベルリンの壁崩壊を生み、その後の自由選挙により西ドイツへの併合が決定され、1990年、ドイツは再統一された。

 本作は、再統一から29年、西側に迎えられた一部のエリートや高学歴青年層を除き、東ドイツの市井の人々が描いていた薔薇色の光景は儚い夢となる中で、東独の古き時代を懐かしむ「オスタルギー」と言われるブルーノ(ペーター・クルト)たちの連帯と孤独、再統一後に生まれたクリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)の孤独からの解放を描いた、慎ましやかな映画である。

 整然と整理された巨大スーパーで働く在庫管理係のブルーノやクリスティアン。夜の倉庫のような空間の灯りはまるで星のようであり、「美しく青きドナウ」の調べに乗って悠々と動くフォークリフトはあたかも宇宙船のようである。

 そのスーパーはかつては国営運送会社の基地で、そこで働いていたトラック野郎がブルーノたち。おそらく西側の企業に買収されスーパーに転換したのであろう。彼らが長めの休憩をとったり、隠れて煙草を吸ったり、廃棄食品を食べてしまうのは、西に対するささやかな抵抗なのだ。

 無口な若者で新人のクリスティアンは、荒んだ時期があったようで、袖口や首筋からタトゥーが見えている。そして良き連帯意識のあった東独時代を知らず孤独だ。

 そんな彼に対して息子のように接するブルーノは、フォークリフトの運転技術を継承していく。お菓子担当のマリオン(ザンドラ・ヒュラー)との淡い恋も、みんなでそっと見守っていく。すべてが優しさに満ちているのだ。

 夜になるとかかる「G線上のアリア」は、夢も希望も、喜びも悲しみも、連帯も孤独も、みんな包み込んでくれる。この小宇宙のようなスーパーの世界。トーマス・ステューバー監督は、名もなき市井の人たちの、ささやかな幸せを祈っているのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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