岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

身体で孤独と悲しみを表現できる大女優

2019年04月13日

ともしび

2017 © Partner Media Investment - Left Field Ventures - Good Fortune Films

【出演】シャーロット・ランプリング、アンドレ・ウィルム、ステファニー・ヴァン・ヴィーヴ、シモン・ビショップ、ファトゥ・トラオレ
【監督・脚本】アンドレア・パラオロ

アンナと共に不安感を共有できる監督の演出

 奥二重の青い三白眼できりっと見つめる眼差し、こけた頬にスリムではあるが妖艶な色気を漂わす肢体、70歳を超えてなお凛とした佇まいで私を魅了し続けるシャーロット・ランプリングの最新作は、人生の晩年になって夫の収監という非日常に出くわし、守ってきた日常が少しずつ歪んできて狂い始めるという物語だ。

 映画はいきなり彼女の絶叫で始まる。それは演劇の発声練習だと分かるのだが、まるでベートーヴェンの「運命」の出だしのような衝撃と不穏な空気での幕開けとなる。慎ましやかに老後を迎えている老夫婦に起こる事件。夫が何の罪で収監されたのかは最後まではっきりしないが、子ども絡みの何かであることはおぼろげながら分かってくる。

 ランプリング演ずるアンナは、以前と同じように障害のある子どもがいる邸宅で家政婦として働いているし、趣味のスイミングや演劇ワークショップには変わらず参加している。しかし、一人になったアンナの部屋の上から漏れ出る汚水や天井のシミ、ドアをガンガンノックしながら叫ぶ女の声など、不安が少しずつしのび寄ってくる。

 疎遠となっている息子夫婦の家へ手土産を持って訪ねるも、門前で追い返される。こういった見えない不可解な現象や理由の分からない拒絶が、彼女を一層不安と孤独に落とし込んでいく。

 アンドレア・パラオロ監督は、映画の中で起こっている現象の理由を一切説明しないし、全体にセリフも少ない。だからこそ、アンナと共に観客も不安になってきて、不安感を一緒に共有できる。中でも電車に乗るアンナを、窓に写る景色や乗客を含めてパンフォーカスで捉えたシーンは、彼女にフォーカスしてない事で孤独感が浮かび上がってくる優れたショットである。

 ランプリングの凄みは、裸体を包み隠さずカメラの前にさらけ出すことに何の躊躇も戸惑いもないことだ。身体で孤独と悲しみを表現できる大女優。ヴェネチア国際映画祭主演女優賞受賞作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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