岐阜新聞 映画部

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黒人差別という厚い壁に挑んでいく、社会派の純愛ラブストーリー

2019年04月01日

ビール・ストリートの恋人たち

【出演】キキ・レイン、ステファン・ジェームス、レジーナ・キング、コールマン・ドミンゴ、テヨナ・パリス、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ディエゴ・ルナ、デイヴ・フランコ、ペドロ・パスカル、エド・スクライン
【監督・脚本】バリー・ジェンキンス

人を人として見る人たちが力強く描かれ、可能性を示してくれる

 黒人差別が激しかった1970年代のハーレムを舞台に、結婚を約束していたティッシュ(キキ・レイン)の恋人ファニー(ステファン・ジェームス)が、冤罪によって不当に投獄される中で、無実を信じるティッシュたちが立ちはだかる厚い壁に挑んでいく、社会派の純愛ラブストーリーである。

 デパート唯一の黒人店員であるティッシュは、香水売り場で洗練されたファッションに身を包み仕事に就いている。結婚に難色を示すファニーの家族の女性たちは、シックでエレガントないでたちである。両家は、プアで暴力的な黒人というステレオタイプでは描かれてない。

 しかし、黒人というだけで白人警官から「犯罪予備軍」とみなされ、見込捜査や思い込み、でっち上げによって犯罪者に仕立て上げられていく過程を、バリー・ジェンキンス監督は冷徹に描いている。

 一方、当時のニューヨークには、理不尽な黒人差別に対し、白人の弁護士や常連のスペイン料理店の男性をはじめ、彼を助けようとする人々も現れてくる。人種という偏見にとらわれず、ただ一点、「無実の人を有罪にしてはならない」という正義感からであり、人を人として見る人たちが力強く描かれ、可能性を示してくれる。

 この映画の鋭さは、黒人青年の冤罪を描くだけでなく、被害者の女性がプエルトリコ人であり、彼女も性的被害によって凄まじいトラウマを抱えているという設定である。彼女もマイノリティで社会的弱者であり、証言は明らかに警官の誘導尋問だ。白人警官が都合よく事件を組み立て、司法も追随していく様子を物語っており、偏見が正義を駆逐するのである。ファニーが罪を認めて減刑を受ける屈辱は、冤罪事件の典型的妥協であり、人ごととは思えない深い悲しみと憤りを感ずる。

 素晴らしい俳優陣の中でも、やはりアカデミー賞助演女優賞を受賞したティッシュの母役のレジーナ・キングの肝っ玉母さんぶりは、記憶に残る名演である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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