岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

中国の新人監督のデビュー作

2019年03月26日

迫り来る嵐

©2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited

【出演】ドアン・イーホン、ジャン・イーイェン、トゥ・ユアン、チェン・ウェイ、チェン・チュウイー
【監督・脚本】ドン・ユエ

中国産のフィルムノワール

 監督ドン・ユエが2017年発表したデビュー作。1997年の老朽化した巨大な製鉄工場を舞台に、連続殺人事件の犯人を追う工場の警備員の男が主人公。この男の過去や家族関係にはほとんど触れず、ひたすら保安部の若い助手と二人で手掛かりを探す場面が続く。鉛色の薄暗い空からは絶えず雨が降っており、沈鬱なムードを醸し出す。シアトルを舞台にした『セブン』を思い起こす。映画前半の展開や主人公周辺の人物造形は悪くない。退職の近い老警官との交流や美容院のガールフレンドなども生きている。何より素晴らしいのは、無表情な主人公の描写だ。一体どういう生い立ちで、どういう性格をしているのか想像してしまう。しかしながら、この監督は余計な説明を一切しないので、その空白は観客一人一人が埋めていかざるを得ない。

 中国産フィルムノワールとして数年前の『薄氷の殺人』と並んで秀逸な作品だとは思うが、後半の展開でこの監督はある実験をしている。それまでのリアリズムの基調からはずれ、映画の現実を何点か意図的にぼかしている。必ずしもそれが成功しているとは言い難いのだが、監督としてはどうしてもその手法を試したかったのだろう。

 1997年といえば香港返還の年。ガールフレンドはいつか香港で美容院を開くことを夢見る。製鉄所のある内陸部の小さな町の再現も素晴らしい。その古びた町の佇まいはどう見ても60~70年代のように見える。背景に流れる中国の歌謡曲やラジオの放送は、中国語も当時の風俗も知らない身には時代設定と合っているのか分からない。いずれにしても、ハリウッド映画のような単純な勧善懲悪ではなく、観終わって深い余韻を残す映画だ。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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