岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

世界が今見るべき現在進行形のドキュメンタリー

2019年03月23日

ナディアの誓い On Her Shoulders

©RYOT Films

【出演】ナディア・ムラド、ムラド・イスマエル、アマル・クルーニー
【監督】アレクサンドリア・ボンバッハ

彼女が知ってほしいこと、訴えたかったこと

 イラク北部に住むヤズィディ教徒のナディア・ムラドさんが、2014年、ISIS(イスラム国)によって家族を殺され、自らは性奴隷となってしまった過酷な現実とその救済を、世界に向かって発信していく姿を追った、今見るべきドキュメンタリーである。

 ご存知のようにナディアさんは、2018年にノーベル平和賞を受賞した。映画はISIS支配地域を脱出してから、国連をはじめカナダやドイツ、ギリシャなどの国々で、精力的に活動していた2016年頃までを映し出す。そのため、ノーベル賞で世界中に認知される前の彼女に対して、ジャーナリストや支援者たちがどう接してきたかが、結果的によく分かる構造になっている。

 ヤズィディ教徒はイスラム教徒が悪魔としている孔雀の姿をした神を崇拝していたため、ISISから邪教扱いされ憎悪の対象となっている。治安が悪化した状態になると一方的に襲撃された上、男や老人は殺され若い女性は「戦利品」として奴隷となり売買され、彼らの活動資金となっていく。

 ナディアさんは、一方的に性被害を受けたのにも関わらず、自らに対する深刻な差別や偏見を覚悟の上で、未だに行方が分からない数多くの女性や子どもたちの救出のために立ち上がる。美容師を目指していた平凡な女性が、ISISに殺されるかもしれないリスクを承知の上で、世界各国に訴えていく姿を、カメラは冷静に捉えていく。

 彼女は性奴隷となって「どう思ったのか」「どうしたいのか」という情け容赦のないマスコミの質問にも丁寧にも答えていくが、決して復讐をしたいのでなく実態を知ってもらいたい、救出してもらいたいのである。そして、この惨劇を知りながらも傍観していた世界の人々、特にイスラム圏の指導者たちに、耳を傾けてくれと訴えたかったのである。

 私たちに謂れなき憎しみによる悲劇と、それに対する人道的観点による行動を訴えかけた現在進行形のドキュメンタリーである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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