岐阜新聞 映画部

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集団心理の恐ろしさや、独裁者を生むメカニズムを解明した力作

2019年03月16日

ちいさな独裁者

©2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

【出演】マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、アレクサンダー・フェーリング
【監督・脚本】ロベルト・シュヴェンケ

決して重苦しくなく、良質な娯楽映画に仕立てている

 ドイツ軍の一兵卒に過ぎなかった若きヘロルト(マックス・フーバッヒャー)が、偶然将校の制服を手に入れた事をきっかけに独裁者然としてふるまい、多くの人の処刑を行ったという実話の映画であるが、ナチズムを許した集団心理の恐ろしさや、独裁者を生むメカニズムを解明した反ファシズムの力作である。

 詐欺師の第一歩は服装であると言われる。人を信用させるために、身なりを整えてから言葉巧みに近寄っていく。また、軍隊では着ている軍服が権威の象徴であり、人間の中身でなく権威にひれ伏す。ヘロルトは、将校の服を身に着けているだけで敬礼してくる兵隊を前に、その心地よさに酔いしれていく。

 そのヘロルトの周りに、一人また一人と兵隊が集まってきて親衛隊となってくる。そして「ヒトラー総統からの秘密指令だ」という確認しにくい権威をたてに、すぐに人を処刑するという実行力を見せつけ、疑問に思う人々をも黙らせることによって、独裁者に上り詰める。国家でなくとも、閉じられた組織の中では常に起こり得る可能性がある事を、事実を基に解明している。

 さらに、この映画で特筆すべきことは、殺りくする相手がユダヤ人ではなく、元は身内の脱走兵である事だ。彼らを見つけ断罪するのに、恐るべき執念を燃やしていく。狂気の沙汰であるが、平時では冷静に判断できることも、戦争末期の混乱状態の中では理性は通用しなくなってくる。最初に決めたルールが、どんどん都合よく拡大解釈され、統制なく適用されていく様子は、戦争の怖さ、集団心理の恐ろしさを物語っている。

 ロベルト・シュヴェンケ監督は、エンドクレジットでヘロルト部隊が現代の街を練り歩き人々に絡んでいくシーンを入れるなど、相当な危機感をもってこの映画を作っているが、決して重苦しい映画ではなく、ハリウッド映画で鍛えられた派手な演出術で良質な娯楽映画に仕立てている。戦争の悲惨さの一断面を切り取った実話映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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