岐阜新聞 映画部

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亡くした時に分かる大きな母の愛

2019年02月23日

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

©宮川サトシ/新潮社 ©2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

【出演】安田顕、松下奈緒、村上淳、石橋蓮司、倍賞美津子
【監督・脚本】大森立嗣

走る母、走る息子 思いはひとつ

 原作は宮川サトシの同名漫画(新潮社)。この漫画にはエッセイというジャンル分けが可能で、さらに、自伝という冠をつけることもできる。

 物語は亡き母を回想するかたちで語られる。田圃道を走る母・明子(倍賞美津子)がいる。わが子の一大事に駆けつける。そこには万引きをしてうなだれた幼きサトシがいる。善悪を分別できる人間であれと、ただ叱るのではなく諭す母がいる。 突然、白血病の告知を受けたサトシに、母は絶対の自信で立ち向かう。ひとつひとつの気遣いをお節介に感じる時もあるが、優しく強く子を包み込む母の深い愛はいつもそこにあった。

 塾の講師をしながら漫画家を目指す、大人になったサトシ(安田顕)の帰りを待つ母がいる。いつしか母の体を気遣う側に転じても、母は変わらず子のことを気にかけている。そして、その母が癌の告知を受ける。

 映画はエッセイ漫画を原作にしている性格上、エピソードは切れ切れの分散型になる。監督・脚本の大森立嗣は、長編デビュー作の『ゲルマニウムの夜』(05)以来、深く鋭い人間関係の洞察で、厚みのあるドラマづくりに定評がある。前作の『日日是好日』(18)は、森下典子のエッセイの映画化で、ドラマを構築するスタイルとは異なるが、その柔軟な自在ぶりには円熟味すら感じ、そこには確かな切れ味が存在した。

 終盤、墓の建立の準備を終えた、父(石橋蓮司)と兄(村上淳)とサトシが解放される、海=琵琶湖でのエピソードが素晴らしい!男の馬鹿馬鹿しいほどじたばたするさまと、それを見守る母の視点。この映画のすべてを象徴するような名シーンとなった。

 サトシを演じた安田顕は飄々とした日常と、感情が振り切れ爆発する瞬間のメリハリの効いた演技が素晴らしい!病院に駆けつける田圃道の疾走は、感動的だ!

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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