残酷な運命 交錯する美しい幻想世界

　イタリア・シチリアの小さな村、学校帰りの少年と少女が、吸い込まれるように森に入る。それは日常の出来事で、戯れ合うふたりを自然な空気感が優しく包み込む。

　バイクのふたり乗り、向かった先は厩舎のある草原で、ジュゼッペ（ガエターノ・フェルナンデス）は颯爽と乗馬に興じる。それを見守るルナ（ユリア・イェドリコヴスカ）の眼差しは、初々しい恋の輝きであふれている。別れ際、ルナの背後を2台の車が通り過ぎて行く。ルナはそれには気づかない。何気ないショットだが、終盤、これはリフレインする。悲劇の暗示だったことが分かる。

　家に帰ったルナは両親から叱責をうける。暗にジュゼッペとの交際を否定する。特に母親の粘質な言動には警告の意味さえ孕んでいる。ジュゼッペの家の影は次第に明らかになる。

　翌日から、ジュゼッペは登校しなくなる。いつまでも無関心を装う、級友や教師に苛立つルナは、ジュゼッペの家へ押しかけるが、父親から激しく拒絶され追い返される。警察にもつめ寄るが、親に通報され、次第にルナは孤立感を深める。何故、ジュゼッペの失踪に世間（まわり）は口をつぐむのか？

　抗議の意思表示のため、髪を染め、それを咎められたうえ、丸刈りにしなければならなくなったルナだった。やがて、進学も決まり平穏な日々を過ごし、すっかり、その髪も伸びた頃、不思議な現象に踏みこむ。現実と幻想の世界を行き来し、次第にその境界が分からなくなっていく展開は、美しい映像に助けられてはいるものの、惹かれ合うふたりの感情が痛々しく投射される。

　むかし、日本には“神隠し”という現象があったとされる…子どもなどが、突然姿を消したことを言い、それは神の仕業とされた。しかし、実情は“間引”の蛮行を体良く隠すものだった。触らぬ神に祟りなしの風潮はどにでもあるが、やりきれない話だ。