岐阜新聞 映画部

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非暴力とアンチヒロイズムを投げかけた、自身初の時代劇の傑作

2019年02月09日

斬、

© SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

【出演】池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
【監督・脚本・撮影・編集・製作】塚本晋也

 製作・監督・脚本・撮影・編集・出演と、常に逃げ場のない真っ向勝負をしている塚本晋也監督の最新作は、今まで一貫してきたテーマである暴力を極限まで追求し、我々に非暴力とアンチヒロイズムを投げかけた、自身初の時代劇の傑作となった。

 前作『野火』では、戦争が日常化する中で、極限状態におかれた人間の狂気の様を異様な空気感をもって描いていたが、『斬、』は太平の世の中が終わり、富国強兵へと潮目が変わる幕末を舞台とすることで、まさに今の時代の現瞬間の空気感を描き出している。

 剣術の達人である都築杢之進 (池松壮亮) は、いざ実戦を前にすると戸惑い躊躇してしまう。いま手にしている真剣で人を斬るという行為、結果として他人の命を奪ってしまうことの重大さが、彼を苦しめているのに違いない。一度手を染めたら、次は簡単に斬ってしまうかもしれないという恐ろしさを実感しているのであろう。

 一方で、彼をスカウトする澤村(塚本晋也)は正義である。何しろ動乱の京へ上って、混乱を収めるための組を作るので、彼に仲間になれと言うのである。さらに、村人が気味悪がる浪人集団を、ちょっとしたいざこざをきっかけにして叩き斬ってくれたのである。

 浪人集団のリーダー源田(中村達也)が「悪い奴にしか悪さはしない」と言っていることを聞き、話し合いで解決しようとする杢之進と、彼らを悪い奴らと決めつけ源田以外を殺して村人の喝采を浴びる澤村。人間の多くは、冷静な意見よりも勇ましい言葉になびき易いという事を警鐘しているのだ。

 一人生き残った源田は、他の仲間を引き連れて、ゆう(蒼井優)の一家を惨殺する。彼女に仇討ちを頼まれる杢之進であるが、それでも躊躇する。復讐の連鎖を止めようともがく姿が痛々しく哀しい。

 塚本監督はメッセージを伝えるのに、だらだらした時間は使わない。上映時間1時間20分の中に、塚本ワールドがキュッと入った野心作だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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